ごめんで済むなら呪いはいらない
投稿者:Mine (24)
「ううん。またいつか夢で会えるよ。また色々話そう。」
そこで私は目を覚ましました。
目覚ましを止めると身を起こし、しばらくぼんやりとベッドの端に腰をかけながら今見た夢の内容を反芻していました。
こんな奇跡が本当にあるなんて…。
夢というのは起床直後からその輪郭がボヤけ始め、時を置かずして殆ど内容を忘れてしまう物ですが、今回夢の中で交わした会話の細部、さらに彼女の些細な仕草までもが現実の出来事のようにずっと頭に残り続けました。
——またいつか会えるよ。
覚醒する直前にカオルの言ってくれたこの言葉が、何よりも強く輝いていました。
私の心配は杞憂だったようで、それからもカオルは約束通り私の夢に現れてくれました。
毎日ではなく週に1、2回の頻度ですがそれでも嬉しくて今夜は会えるかな、と寝るのが楽しみになったのは言うまでもありません。
昔からそうですがカオルには特別な心地良さのようなものがあり、だから親や他の友人には言いにくい話でも彼女にだけは気兼ねなく安心して相談できるのです。
夢の世界と現実では時間の流れが異なるらしく、眠りに落ちてカオルに会いそれからいつも体感では1時間にも満たない内にベルが鳴り響きます。そして目を覚ますと朝日がカーテンから差し込んでいるのでした。
そんなある日のこと。いつもの様に私が夢の中で今日学校であったことなんかを話しているとカオルが浮かない顔をしています。
「どうしたの?」
カオルは思い詰めた面持ちで暫く黙っていましたが、意を決したように口を開きました。
「……実はナツミに打ち明けたい事があって……」
そして彼女が語った内容は衝撃的な物でした。
「私、実は天国に行けてないんだよね。私が今いる場所は天国でも地獄でもない、何処までも静かで空虚な……狭間の場所なの。」
私が絶句していると更にカオルはぽつりぽつりと続けます。
「私がナツミの夢に来たのはね、ナツミに会いたいからってだけじゃなくて、お願いがあるからなの。……公園、覚えているでしょ。」
私達の間で公園といえば一つしかありません。
放課後に2人でよく行きベンチに座って缶ジュースを飲んでいた、ブランコしかない小さな寂れたあの公園です。
「1番大きな木の根元に巾着袋を埋めてあるから、取り出して来てほしいの。」
「巾着袋?」
「そう。袋は絶対開けないでね。」
まだ聞きたい事はあったけどそこで目覚まし時計が鳴り、私は目を覚ましました。
木の根元に埋めてある巾着袋……?
その日学校から帰ってすぐ私はあの公園に向かいました。
久しぶりに来た夕暮れの公園は相変わらず閑散としていて灰色の空気が漂っていました。
ベンチにおばあちゃんが1人腰掛けている以外に他に人は見当たりません。
懐かしさに浸りたいところですが今はやるべき事があります。
主犯格は許せないが、見て見ぬふりされ助けてくれ無かった事の方残酷な事なのですね。
いじめた生徒は、自殺に追い込んでしまったと自覚すら持たず、のうのうと生きている人達がいるのも現実です。
いじめの無い世の中になればと考えさせられる内容でした。
怖かったです。
人間が一番怖いです
いじめをする人間は悪いけどいじめられる人間も悪いみたいな事をいう風潮があるかぎり、いじめはなくならない。
巾着袋が出てきた時点で、何となくオチが見えましたが、この手の話、好きです。
いや、これ、やはりカオルさん、呪う相手の順位、間違っています。
親友のナツミさんだって、自分を助ける手段を模索し、悩み抜いたんだし。
下手に間に入ったら、自分が標的になる危険があるから、傍観せざるを得なかったのは、ギリギリの決断だったわけです。
そのことは、ナツミさんだって、わかっていたでしょ?
カオルさんが、ナツミさんの立場だったら、やはり、同じ行動を取ったのではないでしょうか?
むしろ、カオルさん、「ナツミさんが、悩んでいたの知っていた。私のために、悩ませてしまって、ごめんなさい。それが言いたくて、夢に出て来た。」
そんなストーリーだったら良かったのにと、思いました。
再度、強調します。
真に憎むべきは、タチバナさんをトップとするイジメの実行グループのメンバーたち。
カオルさん、そこは、しっかり、認識してほしかったです。
蛇足ですが。
今、ほとんどの市町村には、いじめの被害を受けている生徒のための、駆け込み寺のような公機関が設置されています。
朝、登校するフリして家を出て、そこに行けば、保護してもらえます。
さらに、極端なこと言えば。
市町村により、その機関の権限には差がありますが。
例えば、カオルさんの場合、その公機関で、以降、授業を受け、そこから高校も受験でき、義務教育を卒業したことにもしてもらえるなんて可能性もありました。
そういうことを、知っておくことが、大切だと思いました。
これ、真の敵が誰か?、復讐するならするで、その復讐相手はまず誰なのか?の正しい判断がつかない、ある意味愚かな話なのでは?
カオルだって、ナツミの立場になれば、果たして、「自分がターゲットにされてもいいから、親友を助ける」という行動をとれたかどうか?
悩み抜いた結果、ギリギリの判断で、傍観を決め込んだ可能性も高かったのでは?
カオリは確かにいじめの被害者ですが、ナツミにとっては・・・
「ナツミが悩んでいたの、そして私を助けられなくて後悔しているの知ってるよ。私のことで苦しませて、ごめんね」というスタンスで、夢の中に表れてくれるくらいの親友ではなかったのですね・・