不幸を呼ぶ十字架
投稿者:海堂 いなほ (14)
リヴァイさんは、片言の日本語で自己紹介をしてくれた。私は、英語が少しは、わかるのでそのまま、英語で返した。
「私は、少しは英語がわかります。お互い片言で話をしましょう。」
「おk、賛成です。」
語学留学のために来たわけではないので、別に英語であろうと日本語であろうと問題ない。
私は、再び、十字架を取り出すとリヴァイさんは、嬉しそうにそれを手に取った。
「これは、私の祖父のものです。」
私は、リヴァイさんの祖父のものという証拠がなんであるか腑に落ちないところだった。
しかし、リヴァイさんは、まるで自分の失せ物が出てきたかのような喜びようだった。この十字架がもし高価なものであったら、彼を疑ったかもしれないが、この十字架が高価そうには、見えない。
「リヴァイさん、どうして十字架のために日本まで来たのですか?失礼ですが、そんなに高価なものでもないでしょう。」
私がそう言うとリヴァイさんは、その理由を話し始めた。
「そうですね。私は、戦争、第2次世界大戦、日本名で大東亜戦争に従軍していました。」
ずいぶん古い話だなと思いながら、私は、リヴァイさんの話を聞いた。
「祖父は、ビルマのラングーンで守備隊の一歩兵だったと聞いています。その時のことです。弾薬も食料も尽き、あとはナイフだけという状態だった私の祖父は、ある建物に隠れたそうです。そこへ、一人の日本人兵士が入ってきたそうです。その時、祖父は、日本人はデビルのような性格をしているから、きっとこのまま殺されるだろうと思っていたのですが、日本人兵士は、『ここには、誰もいない。』と言い、私の祖父を逃がしてくれたそうです。逃げるときに、私の祖父は、その日本人兵士に首に下げていたこの十字架を彼の手に渡したそうです。」
「そんな話が、あったんですね。」
私は、その話を聞きながら、遠い昔、私の祖父から聞いた話を思い出していた。
”そういえば、似たような話をおじいちゃんも話をしていたような気がする。”
ちょっと感動的な話に割り込んできたのは、店長であった。
「この十字架が、あなたの祖父の物っていう証拠がない。」
「あります。この後ろに」
そういうと、リヴァイさんは、十字架の後ろに小さく名前が彫られていることを教えてくれた。
―ジョーンズ家に幸運をーと刻まれていた。私は、不意に祖父の言葉を思い出した。
「私の祖父もラングーンで戦争に参加していました。航空通信兵でしたけど。最初は、勝ち続けていたからよかったが、1年もするとだめだ。みんな死んでしまった。祖父は運良く戦傷を負い、生きて帰ることができましたけど。右足首に今でも破片が入っているそうです。祖父は、一等傷なんて言っていましたけど、本当に帰ってこれてよかったと言っていました。」
「あなたの祖父もラングーンで戦っていたんですね。」
「はい。そんな祖父も数年前に亡くなりました。」
すると、リヴァイさんも答えました。
「ワタシの祖父も同じです。だから、祖父のたどった道を知りたく、アジアを旅しています。祖父は、まめな人で、日記を書いていました。おかげで、どこで何をしていたのか、ある程度はわかるんです。そういえば、祖父は、一枚の布切れを残してくれました。その助けられたときにその日本人が祖父の足の傷に当ててくれた布なんですが。」
そう言って、リヴァイは、20cmほどの古い布切れを取り出した。その布には、すでに茶色になった血のシミと千人針がびっしりと縫われていた。さらに、そこには祖父の名前が書かれていました。
「あっ、これは、私の祖父の名前です」
「え!なんという偶然でしょうか。神様、祖父を助けてくれた恩人の子に会えるなんて」
リヴァイさんは、私の手を握り、何度も頭を下げた。
国を越えてご縁が繋がりましたね。
とても感動しました。
そして、罰当たりな金の亡者にはいずれ何かしらの報いがありそうですね
怪談というよりも、歴史もの的な感じでとてもいい味のある小説になっている気がします。このお店を舞台にしたシリーズものが作れそうで、なんだかつづきを期待しちゃいます。
kamaです。ほんと怪談初心者さんという名前には似つかわしくないほどの話のうまさ。すごくおもしろいです。