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呪い・祟り

セイスケくんさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

雲間の宿り
短編 2024/11/17 10:12 49view

小さい頃、ミサキには奇妙な癖があった。

新聞やネットニュースを見るたびに、死亡記事をくまなくチェックしてしまうのだ。特に「〇〇町」や「××山」といった地名が目に留まる。本人にも理由は分からなかった。ただ、一つだけ確かなのは、その癖が十年前のある出来事に由来していることだった。

十年前、ミサキは中学生で、親友のナオトとよく遊んでいた。
二人が住む港町は静かで小さく、周囲を海と山に囲まれていた。ある日の放課後、ナオトが提案した。「あの山の向こうに、捨てられた村があるんだって。行ってみようぜ。」ナオトのこういう無鉄砲さが、ミサキには少しだけうらやましかった。

その週末、二人は自転車に乗り出発した。舗装道路を離れ、山道に入る。道は次第に細くなり、やがて地図にも載っていない分岐が現れた。ナオトが迷わず「こっちだ」と進む。しばらくして急に霧が立ち込め、視界がほとんど効かなくなった。前方に古びた木の看板が現れる。「雲間集落」と読めた。

そこは谷間に隠れるように佇む廃村だった。屋根が崩れた家々、風化した石の道標、そして奇妙なほど静かな空間。二人は息を呑みながら奥へと進み、雨宿りができそうな家を見つけて中へ入った。

室内は埃だらけだったが、家具や生活道具がそのまま残されていた。ナオトは古びた日記帳や壊れたラジオを見つけてはしゃいでいたが、ミサキは違和感を覚えた。寒さとも、怖さともつかない感覚が背中を這っていた。

探索するうちに、ミサキは二階への階段を見つけた。昇ると、子供部屋と思われる小さな部屋に行きつく。棚にはおもちゃや絵本が散乱し、その中に一枚の写真があった。それは三人の家族写真だったが、中央に座る女の子の顔がぼやけていた。写真の裏には名前が書かれていた。「ミユ」。

突然、下からナオトの叫び声が聞こえた。「おい、変な音がする!」ミサキが一階に駆け降りると、ナオトが古びたカセットプレイヤーを手にしていた。家の隅で見つけたらしい。再生ボタンを押すと、かすれた声や物音が断続的に聞こえてきた。

「……誰かいるの……?」
「……戻ってきた……」

「これ、絶対やばいやつだな」とナオトが笑いながら再生を止めたその瞬間、プレイヤーが勝手に動き出した。声は再び流れ始める。家全体が軋む音を立て、ミサキは息を呑む。「ナオト、外に出よう」と言いかけたその時、玄関の向こうから足音が近づいてきた。

霧の中、廃村を彷徨う人影があった。それは子供のように見えたが、近づくにつれて不自然な点が分かる。女の子は顔を上げたが、目や口がぼんやりと歪んでいた。ミサキはすぐに気づいた。それは、写真の中のミユだ。

「おい、逃げるぞ!」ナオトが叫び、自転車を全速力で漕ぎ出した。ミサキも慌てて後を追う。だが、霧が濃くなりすぎて、ナオトの姿が見えなくなった。何度も名前を呼んだが返事はない。やがて霧が晴れると、ミサキは元の山道に出ていた。けれど、ナオトも自転車も消えていた。

その後、町中を探したが、彼は二度と見つからなかった。
山に入ったことを誰にも話せず、ミサキは一人で苦しむ日々を送った。そして、新聞やニュースを目にするたび、ナオトの名前を探してしまうようになった。

あれから十年。

ミサキは雲間集落の記憶を、霧の中に取り残したような感覚で生きている。ただ一つ忘れられないのは、「ミユ」という名前を目にするたび、あの霧の中の不鮮明な少女の影がよみがえるという。

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