不幸を呼ぶ十字架
投稿者:海堂 いなほ (14)
十字架を預かって、数日が経ったが、私の身には何も起きなかった。そういえば、店主から、どのくらいで、効果?(怪我)をするのかを聞いていなかった。さらに数日が経ち、私が、十字架の存在を忘れかけたころに、また、店主が我が家にやってきた。
「どうだ?怪我した。」
満面の笑みで私にそう尋ねた店主だった。
「すいません。あいにくと怪我は、しておりません。」
どこにしまったか忘れかけていたが、そういえば、仏壇に供えていたので、とってこようとしたが、店主に止められた。
「いや、いいよ。持ってこなくて、それよりも、その十字架の持ち主という人から連絡があってな。見たいそうだ、十字架を」
「そうなの、いつ?」
「明日の10時に着くって。」
「それは、えらい急だな」
「まあ、元の持ち主に返るのなら、それに越したことはないからな」
「売るんじゃなくて、返すんだな」
どうせ、この店主のことだ。弱みに付け込んで、高値で売ろうとしているに違いないと思った私は、念を押すように言った。
そして、次の日、私は仏壇から例の十字架を取ると、そのまま、ハンカチに包んで、ポケットに入れた。
店主との約束では、古着屋の隣にあるファミレスで落ち合うことにしているとのことだった。
ファミレスの前はバイパス道路で、結構広めの交通量の多い道路になっていたが、信号と横断歩道があるおかげで、安心して渡れるようになっていた。その時、事件は起きた。
私が赤信号のため横断歩道の前で待っていると、急に右足首に激痛が走ったのだ。そして、思わずしゃがみこんだところへ、頭上僅か3cmのところを車が通り抜けていった。まるで映画のようだったが、私はそれどころではなくぼんやりと飛んで行った車を見ていた。そして、気が付くと、うそのように右足首の激痛がなくなっていた。周りは大騒ぎになっていたが、私には何ともなかったし、救急車や警察もすぐに来たおかげで、救急車に乗せられ、警察にも事情聴取をされ、結局、ファミレスに着いたのは、2時間後になってしまった。
「すごかったな!」
私が到着するなり、店長は声をかけてきた。すでに店についていた店主は、事故現場を見て、興奮している様子だった。私としては、命が救われたことよりも、さっきの痛みの方が気になっていた。
「持ってきたよ。」
と私は、席に着くなり、ハンカチに包まれた十字架を店主に見せた。店主は、嬉々としていた。私が助かった時に左足を押さえるような仕草をしていた姿を見ていたのだ。
「やっぱり、呪いがあるんだよ。」
「俺、死んでないし。」
「確かに、寧ろ、命が助かっているわけだから、不幸なのか?」
店長は、頭を捻りながら、勝手に唸っている。そこへ、店長のスマホに着信があった。例の外国人からの連絡だ。
「HELLO。Yes、wait、もう来るって」
「店長、意外なんですけど、英語、いけるんですね。、意外でした。」
「日常会話ぐらいは、できるよ。商売人なら誰でも。今時おじいちゃんやおばあちゃんだって話ぐらいできる。」
そんな話をしていると、そこへ、イギリス系の外国人が店のなかに入ってきた。私は、良くこんな分かりにくいたどり着けたなと思いつつ、頭を下げた。
彼は、リヴァイ ジョーンズと名乗った。
「はじめまして、りばい、です。」
国を越えてご縁が繋がりましたね。
とても感動しました。
そして、罰当たりな金の亡者にはいずれ何かしらの報いがありそうですね
怪談というよりも、歴史もの的な感じでとてもいい味のある小説になっている気がします。このお店を舞台にしたシリーズものが作れそうで、なんだかつづきを期待しちゃいます。
kamaです。ほんと怪談初心者さんという名前には似つかわしくないほどの話のうまさ。すごくおもしろいです。