山の守り人
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
「元はと言えば『ジローさん』が悪いんだよ。ジローさんがあんな美味いキノコを見つけたせいで…。」
『ジローさん』というのは恐らく猟師仲間だろう。
「美味いキノコ?」
俺がそう聞くと猟師Bは
「ああ。ジローさんが季節外れのマツタケをこの辺りで見つけたっていうんで、俺たちの目の前で七輪で焼いて食ったんだ。」
「それが美味かった?」
猟師Bは俺の質問に何でも答えてくれそうだった。
「見た目はマツタケにそっくりだったが、傘の裏側が青白くてな、あれはマツタケなんかじゃなかった。」
「で、あなた方はそれを食べたんですか?」
「いや、いくらなんでも初めて見るキノコを食う勇気なんて無いさ。でもジローさんは食っちまった。」
「もうそのくらいでいいだろう。」
猟師Aは、Bの話をやめようとしたが、Bは話をやめなかった。
「どうせもう最後になるだろうから、全部話してもいいだろうよ。」
〈『最後』とはどういう意味だ?〉
猟師Bはさらに話を続けた。
「ジローさんはそのキノコを『美味い美味い』と言って2本平らげたんだ。そしたら、寡黙なはずのジローさんがとにかくしゃべり始めたんだ。何だか難しい計算式や政治経済、かと思えばくだらないギャグとかをずっと言っていたんだ。しまいには、誰もいない所を指さして『俺を睨むな!』とか言い出したんだよ。あれには参ったよな…。」
「…そのキノコって、食べたら幻覚を見るような?」
「そうかもしれん。ただ、ジローさんは1時間ほどで元のジローさんに戻ったけどな。ただ、ジローさんのあの美味そうな食べっぷりを見たら、俺たちも食いたくなったんだ。なあ、そうだろう?」
猟師BはAに向かって賛同を促した。
「ああ、たしかにあれは美味かった。今まで食ったどんなキノコよりもダントツでうまかった。しかも食った後は妙な高揚感というか、五感も鋭くなって目が冴えて、しかも宙に浮いたような気分になって、自分は何でも出来そうな、そんな気がしたんだ。」
「…それって、まるで覚醒剤みたいですね…。」
「そんな事は分かってる!」
猟師Aは、今までとは全く違う乱暴な口調になっていた。
「だから、それを知られたらマズいんだよ!でもそれがなぜかバレちまったんだ!」
「ああなるほど、それであなた方はそのキノコを盗もうとした人をそうやって…」
「ああ、何人いたかな、密猟者をこの銃で仕留めたんだよ!」
そんな言葉に俺は怖くなって
「お、俺は密猟者なんかじゃ…!」
「そんな事はわかってる!でもこの場所を知られては、生きて返すわけにはいかないんだよ!」
猟師Aは、Bとともに俺に猟銃を向けた。
ご冥福をお祈りします。