より子ちゃん (加筆修正版)
投稿者:kana (217)
サンタさんの贈り物はどうやらそれだけではなかったらしい。
ボクの体調はそれからさらによくなり、少しくらいなら走ることもできるようになっていった。
それから何度かより子ちゃんと会うことが出来た。
リハビリのために買ってもらった自転車で教会へ行くと、ボクのことを待っていてくれることもあった。教会の門を入ると中は緑もたくさんあり、公園のように広かった。
ボクとより子ちゃんはよくそこで花を見たり、虫を見たり、木陰でおしゃべりして過ごした。ただなんとなくぼんやり空を眺めて、風に流れる雲を一緒に見たりすることもあった。後から知ったことだけど、そこは実は教会とつながる女子高の敷地だったようだ。
たまにボクは自転車の後ろにより子ちゃんを乗せて、一緒に二人乗りで教会の外へ行こうと誘ったりもしたのだが、教会の門から外に出ようとはせず、いつもそこでお別れとなった。
「外はコワイ」と言うのだ。
一度だけ、無理に誘って教会の門を少しだけ出たことがある。
でも、より子ちゃんは激しく怖がり、仕方なく教会の敷地内に二人で戻った。心がざわつく。・・・教会の屋根の近くに不気味な悪魔のような像が座ってこっちを見ている。いわゆるガーゴイルと言う奴だ。(まさかあいつが睨んでいるせいだろうか…)
ボクはしばらくの間、どうすれば良いのかわからず途方にくれた。
・・・・・・
ボクはその後もどんどん体調がよくなり、元気いっぱい走り回れるようになっていった。それまで体を使って遊べなかった反動からか外で運動することが楽しくなり、しだいに友達もたくさん増えていった。反面、より子ちゃんとはだんだん会う機会が減って行った。
教会は女子高の敷地内でもあり、そのことも行きにくい原因のひとつである。
より子ちゃんと会えない時間が流れてく。
そんなある日、決定的なことが起きた。
中学も3年になったころだ。押し入れの中を片付けている時に、小学生時代にハマっていた鉱石採集セットが出てきて、あのより子ちゃんとのクリスマスイブのことが思い出された。
「そういえば、あの時ってなんだか幸せだったなぁ…世界がすべて美しくて…より子ちゃん…元気かな…」ボクは急に会いたくなって、久しぶりに自転車で教会まで行くことにした。今もまだ、そこにいてくれるのだろうか?
雲行きが怪しい。なんとなくもうすぐ雨が降りそうなそんな天気だ。急ごう。
自転車で坂道を駆けおりた先に教会が見えてきた。あの目立つガーゴイルはなくなっていた。久しぶりに教会の門をくぐってみる。自転車を押しながらしばらくキョロキョロ探してみる。
「より子ちゃん…より子ちゃんいる?」
小さな声で呼びかけてみる。
いつも一緒にいた木陰に立ち寄り、少し待ってみた。
しばらくするとより子ちゃんが白い光と共にスーッと静かに横に現れた。
そしてこの時、あることに気付いてしまった。
初めて出会ってから数年がたち、自分はもういっぱしの中学生で背も伸びたのに、
より子ちゃんは昔のままの小さな少女のままなのだ。
その事に今更ながら気が付いて、自分の中に強い違和感を感じてしまった。
いや、その可能性は薄々気付いていたのかもしれない。
だが、信じたくない気持ちがそうさせていたのか…
ボクは頼子ちゃんに問いかけた。
kamaです。こちらの作品は、去年のクリスマス時期に一度「クリスマス特装版」としてクリスマス色を強く出してお送りしましたが、本来のこの作品は「息子の誕生日」をきっかけに話が進むものですので、改めてこちらの作品をディレクターズカット(一度言ってみたかった)にして再掲載させていただきました。この物語の正式バージョンとなります。