より子ちゃん (加筆修正版)
投稿者:kana (217)
ボクと母は中に通され、運よくそれを鑑賞することができた。
しばらく讃美歌に聴き入っていたが、ボクにはもう一つ大事な目的があった。
より子ちゃんを探すことだ。講堂内に集まっている人たちをくまなく目で追う。
「きっとまた会えるよね」と自分に言い聞かせるように願うのだが、
その小さな白い天使の姿はなかなか現れてはくれない。
「ふぅ」と一息ついて下を向き、あきらめかけたその時、
ボクの隣にスーっと白い光が現れた。
「より子ちゃん!?」
思った通り、やっぱり教会でまた会うことができた。
ニコっと笑顔を向けてくれるより子ちゃん。
そして今日はクリスマスイブである。
ボクは密かに用意していたプレゼントをより子ちゃんに手渡した。
そうはいっても、女の子に何をあげれば喜ぶのかよくわからなかったボクは、当時自分がハマっていた鉱石採集セットの中から、かわいいピンク色のローズクウォーツを持ってきて、それをプレゼントにしたのだ。
「メリークリスマス、より子ちゃん」
手にしたローズクウォーツをしばらく目の前にかざして見て、笑顔になるより子ちゃん。
「よかった気に入ってくれたみたい」
それからより子ちゃんはボクの隣に座り、まるでそれが当たり前かのようにボクの手をずっと握っていた。あたたかい空気がボクたちを包んでいる気がする。
母とボクとより子ちゃん、3人で並んで静かに讃美歌を聴いている。
なんだか世界がとても美しく感じられた。
いつまでもこの平和で優しい世界がずっとずっとつづいてほしい…。
ボクはそう願いながらまどろんでいた。
でも、母にはより子ちゃんが見えないのだろうか?まるで気づくそぶりがない。
「お母さん…お母さん、あのね……あのね……」
深く静かにこの暖かい世界に溶けそうになりながら、ボクは母により子ちゃんを紹介しようとしていた。
・・・・・・
「ほら、もう帰るわよ。起きて」
母親の声でボクは目を覚ました。どうやら少し眠ってしまったらしい。
より子ちゃんもいなくなっていた。夢から覚めるとはこの事か。
ローズクウォーツはなくなっている。より子ちゃんが持ち帰ったのは間違いない。
こうしてボクは、ちょっとだけクリスマスイブを彼女と一緒に過ごすことができた。
きっとこれはサンタさんからの贈り物だったに違いない。
kamaです。こちらの作品は、去年のクリスマス時期に一度「クリスマス特装版」としてクリスマス色を強く出してお送りしましたが、本来のこの作品は「息子の誕生日」をきっかけに話が進むものですので、改めてこちらの作品をディレクターズカット(一度言ってみたかった)にして再掲載させていただきました。この物語の正式バージョンとなります。