ゴミを捨てた時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
仕事で異動があり、とある都市の支店に転勤することになった。
その支店の近くに、会社が寮として借りているマンションの3階の角部屋をあてがわれた。
会社からの補助もあり、この辺りの相場からするとかなりいい部屋を格安で住むことができる。
このマンションには常駐の管理人もいて警備もしっかりしているようなので、安心して生活できそうだ。
引っ越し自体は滞りなく終わり、事前に管理人に引っ越しの連絡はしていたのだが、実際に会うのはこの日が初めてだった。
荷物の搬入も終わり落ち着いた後に管理人に挨拶に行った。
「こんにちは、お世話になります。連絡してましたが、今日引っ越ししてきました(私)といいます。よろしくお願いします。」
管理人室の小窓越しに管理人に声を掛けると、監視モニターを見ていた管理人がゆっくりとこちらに振り向いた。
「…ええ、聞いてますよ。『(私)さん』でしたね…。よろしくお願いしますね…。」
管理人は小窓を少し開け、そう返事をしてくれたが、その隙間から、ペットでも飼っているのか、何だか生臭いようなにおいがしてきた。
「…ああ、すいません、猫を飼ってましてね、おとなしい奴なんで人前には出たがらなくて…。」
メガネをかけ、やせこけた頬の60歳半ばといった雰囲気の管理人は、嬉しそうに猫の話を始めた。
「…そうそう、この辺りは野良猫が多くてねえ…、ご近所さんからクレームが来ることもあって大変なんです…。」
言われてみれば、このマンションの周りには『猫に餌を与えないで』とか『猫の餌やり禁止』といった手書きの看板が多かった。
「…誰かが野良猫に餌をやってるんじゃないかって話を聞くんですが、その人の姿を見た人がいないもんですから…。」
「なるほど、そうなんですね…。」
そんな会話をしていると、管理人は思い出したように
「…そうそう、ゴミ捨てはそこのゴミ捨て場に夜10時までに出してくださいね。くれぐれも、これは守ってください。」
「わかりました、10時ですね。」
この辺りのいくつかの市では、全国的には珍しく、ゴミの収集は夜に行われている。
とは言え、あまり遅く出してゴミ収集車が行ってしまった後では意味が無い。
引っ越してきてから2週間ほど経って生活も落ち着いてきたころだった。
その日は帰りが遅くなってしまい、たまったゴミを急いで出さないといけなくなった。
「まだ間に合うかな…。」
そう思ってゴミを出しに行ったが、時計を見ると10時を10分ほど過ぎていた。
収集車はまだ来てなくてたくさんのゴミがあり、そこにゴミ袋を置いた。
何とか間に合ったと安堵して、帰ろうとして振り向くと、そこに管理人が立っていた。
腰が抜けそうになるという表現があるが、今がまさしくその状況だった。
「ゴミ出しは10時まで、と言いましたよね!?」
挨拶しに行った時とは別人のように、管理人は険しい表情をしていた。
その管理人はその後どうなちゃったかね?
管理人に化けてでるぞ!