山中の遊戯
投稿者:すだれ (27)
祖父がそう言ってる途中から、周囲の葉は忙しなく揺らいで音を立てていた。どうしよう、どうしようと。親のお叱りに怯える子どもの声にも聞こえた。
「そこでおじいちゃん言ったんだって。『麓まで案内せぇ。鳥居までの道を出せば、ヌシには黙っておいてやろう』って」
「そうしたら?」
「木の実が目の前に1つ、落ちてきたの。拾うとまた少し前にポトポト落ちてきて、辿るように進んだら元の道に出たって。山を下りる間ずっと両脇の草や葉っぱがザワザワ言ってて笑いそうになったって」
祖父には『案内するから言わないで』という、何かの必死な懇願が伝わったのだろう。無事鳥居を潜り麓まで戻った祖父は社に手を合わせた。
言う言わないとイタズラしてきた何かを散々脅したが、どのみち山の中で起きた出来事はヌシには筒抜けだろうから、
あなたの子らに遊んでいただきました、楽しかったです。
あまり叱らんでやってください。
と口添えをしてその場を後にしたそうだ。
「中々に興味深い体験をしたんだな」
「木の実投げてたアレの正体って何だったんだろう?」
「色んな可能性がある。幽霊のような存在かもしれないし、ヌシのように土地神に近い存在かもしれないし…案外、タヌキやキツネかもしれない」
「ああ、化かされたってこと?」
「どれにしても、社に祀られたヌシの元で暮らす存在ではあるから、ある意味祖父君の見立てと対処法は合理的ではあったな。この体験自体は誰にでも言える内容ではないが…隣町の山を踏破した事実は学友たちへの自慢になったろうし」
「まあそっちはヒーローだったんだけど…」
「ん?」
「後日、社に何か礼をお供えに行こうとして、また勝手に自転車を借りようとしたところをお兄ちゃんに見つかってこっぴどく怒られたって」
「ああー…」
隠れて悪いことをするもんじゃないのは人間も一緒のようじゃ、と祖父は頭を掻きながら友人に語ったそうだ。
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