小心者の幽霊

その日のお客さんは、とても臆病で自力では何もできないような
そんな女性の幽霊でした。
ふわふわふらふらと宙を舞い、天井の辺りをたゆたっています。
（助けて、助けて、助けて）
その言葉だけをひたすら繰り返します。
そして金縛りもひたすら繰り返します。
「助けて、助けてって言ってるくせに、何回も何回も金縛りを
かけるんじゃないわー！！」

やっていることと、言っていることがここまで一致しない幽霊は初めてです。
「何なのあんた？いい加減にしてよ！」

その日は仕事でクタクタになった日でした。
厄介なクレームを付けられて、一人で処理して帰って来たのです。
気力も体力もガタガタでした。
だから睡眠くらいはゆっくりと取りたかったのです。
私は少々虫の居所が悪くて、幽霊相手に相当暴言を吐いているようでした。
「いい加減にしろって言ってるでしょう！」

私は布団の中で暴れます。
ひと暴れして追い払い、またうとうととし始めると金縛りをかけて来ます。
「ああ～もう無理限界！とっととクタバレ！・・・いや死んでるのか
早く成仏しろ！」

もう自分でも何を言ってるのか分かりませんでしたが、良いことを思いつきました。
「ううん！プロのところへ行けー！！」
お坊さんが喝を言うがごとく迫力で言い切ると、幽霊はすっと消えて行きました。
これからはこれで行こう。
我ながら名案です。