私が小学校五年生の時の話です。
『小学校の通学路を夕方、一人で歩いていると黒い人型の影だけのお化けに出会う』
そんな噂が立ちました。
「手招きされた」
「肩を叩かれた」
「追いかけられた」
「捕まると異次元に連れて行かれて帰ってこられなくなる」
いつしか噂は広がり、異形の存在を『シャドーマン』と呼んで、
学校じゅうの子供たちが恐怖しました。
ある日、理由は忘れましたが、私は学校から帰るのが遅くなり、一人で帰路についていました。
通学路として使っていたのは緑道で、交通事故の心配がない代わりに、時間が遅くなると、
人通りが少なくなり、うら寂しい雰囲気になります。とはいえ、買い物帰りの主婦や、
小学生より帰宅時間の遅い中学生や高校生が通りかかるので、完全に人がいなくなるわけではありません。
夕闇迫る薄暗い道を歩いていると、ふと感じた気配に、足を止めました。
緑道の両端は芝生になっていて立木が並んでいますが、そこにぼんやりとした人影が立っていたのです。
輪郭はぼやけてはっきりせず、実体がないように思えました。
小刻みに震えているというか、微妙に大きさが変わっているようにも見えます。
私はそれから目が離せず、その場で睨み合う格好になりました
その間、中学生くらいの男子生徒が通りかかりましたが、その人には見えていないようです。
一分近く対峙した後、人影はすうっと地面に吸い込まれるようにして消えていきました。
それからしばらくして、その辺り一帯で女子児童や女子中学生が背後から抱きつかれるという事件が起こり、
近くに住む浪人生だか無職だかの男が捕まりました。
犯行時の服装が上下黒ジャージで黒いニット帽をかぶっていたので、
それが『シャドーマン』の正体だったということで幕引きになりました。
でも、私が見たのは少なくとも『実体のある人間』ではありませんでした。
私と三歳年下の妹は『霊感体質』で、私が見たのは一度きりですが、私より力の強い妹は、
「いるよね、影だけの人。何回か見たよ」と言っており、確かにナニかがいたのでしょう。
ただ、痴漢男が捕まってからの被害はなかったので、無害な存在だったのだと思います。
今はその土地を離れていますが、『シャドーマン』は現在もあそこにいるのでしょうか。
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