新居にて
投稿者:件の首 (54)
息を落ち着け、蛇の隙間を歩き、玄関に辿り着く。
そして下駄箱の上に置いた自動車と家の鍵が付いたキーホルダーを取り、玄関の外に出た。
外にもあちこちに蛇の姿が見える。
こんなところにいられない。
とにかく離れた場所にいこう。
そう思いつつ、ガレージに行くと。
車は既に蛇があちこちに絡みついていた。
私は叫ぶ気力もなく、ゆっくりと家から離れ、隣の家の灯りに向けて歩いた。
「――夜分にすみません、家が、大変な事になっていまして」
インターホンで説明している途中で、ドアが開いた。
「どうされました」
お隣の老夫婦の夫の方が声をかける。
「家の中に……大量の蛇が出まして」
私の言葉に、老夫婦は顔を見合わせた。
それから、夫の方がじっと私の顔をみながら、不思議そうに言った。
「知らずに買ったかい?」
――老夫婦によれば。
あの家には、蛇のブリーダーが住んでいたという。
ペット用に蛇を繁殖させ、ネット通販で売っていた。
気味悪がられてはいたが、最初はそれなりに近所づきあいもあった。
だが、そのうちに、周辺で見慣れない種類の蛇が発見されるようになった。
ブリーダーの管理が不十分で逃亡させているのは確定的だった。
「――それで、町内会で『管理をきちんとするよう』とお願いしたんだが、『爬虫類だからって、差別するのか。猫を放し飼いにしているだろう』と、逆ギレする始末だった。仕方が無いので」
「仕方が……ないので?」
「あの家に、有志で蛇のフェロモン剤をまいたんだよ」
「フェロモン……」
「結果として、蛇はあの家から逃げて行く事はなくなった。逆に、周りの蛇が集まって来るようになったんだがな」
彼は笑った。
「そのブリーダーはどうしたんですか」
「ああ。フェロモンにおびき寄せられたものに、マムシがいてな。庭で噛まれてそのまま死んでおったよ。発見された時は、他の蛇たちが肉に群がって、酷い有様だった」
どことなく、嬉しそうに言った。
……一歩間違えれば自分もそうなっていた。
むしろよく、ここまで逃げて来られたものだ。
「そうかい、蛇を飼う人じゃなかったのかい。そりゃあ無事で本当に良かった」
笑う男の顔をぼんやり見ながら、一体、あの家とこの家、どちらにが安全なのか、さっぱり分からなくなっていた。
気持ち悪っ
ためはち
年取ってからの田舎暮らしは止めたほうが良いです。