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ヒトコワ

件の首さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

新居にて
長編 2022/11/09 21:43 9,014view
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 息を落ち着け、蛇の隙間を歩き、玄関に辿り着く。
 そして下駄箱の上に置いた自動車と家の鍵が付いたキーホルダーを取り、玄関の外に出た。
 外にもあちこちに蛇の姿が見える。
 こんなところにいられない。
 とにかく離れた場所にいこう。
 そう思いつつ、ガレージに行くと。
 車は既に蛇があちこちに絡みついていた。
 私は叫ぶ気力もなく、ゆっくりと家から離れ、隣の家の灯りに向けて歩いた。

「――夜分にすみません、家が、大変な事になっていまして」
 インターホンで説明している途中で、ドアが開いた。
「どうされました」

 お隣の老夫婦の夫の方が声をかける。
「家の中に……大量の蛇が出まして」
 私の言葉に、老夫婦は顔を見合わせた。
 それから、夫の方がじっと私の顔をみながら、不思議そうに言った。
「知らずに買ったかい?」

 ――老夫婦によれば。
 あの家には、蛇のブリーダーが住んでいたという。
 ペット用に蛇を繁殖させ、ネット通販で売っていた。
 気味悪がられてはいたが、最初はそれなりに近所づきあいもあった。
 だが、そのうちに、周辺で見慣れない種類の蛇が発見されるようになった。
 ブリーダーの管理が不十分で逃亡させているのは確定的だった。

「――それで、町内会で『管理をきちんとするよう』とお願いしたんだが、『爬虫類だからって、差別するのか。猫を放し飼いにしているだろう』と、逆ギレする始末だった。仕方が無いので」
「仕方が……ないので?」
「あの家に、有志で蛇のフェロモン剤をまいたんだよ」
「フェロモン……」
「結果として、蛇はあの家から逃げて行く事はなくなった。逆に、周りの蛇が集まって来るようになったんだがな」
 彼は笑った。
「そのブリーダーはどうしたんですか」
「ああ。フェロモンにおびき寄せられたものに、マムシがいてな。庭で噛まれてそのまま死んでおったよ。発見された時は、他の蛇たちが肉に群がって、酷い有様だった」
 どことなく、嬉しそうに言った。
 ……一歩間違えれば自分もそうなっていた。
 むしろよく、ここまで逃げて来られたものだ。
「そうかい、蛇を飼う人じゃなかったのかい。そりゃあ無事で本当に良かった」
 笑う男の顔をぼんやり見ながら、一体、あの家とこの家、どちらにが安全なのか、さっぱり分からなくなっていた。

3/4
コメント(2)
  • 気持ち悪っ
    ためはち

    2022/11/10/07:20
  • 年取ってからの田舎暮らしは止めたほうが良いです。

    2022/11/10/22:12

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