幻聴が聞こえたら
投稿者:件の首 (54)
『……殺せ、殺せ……』
学校の授業中、突然、声が聞こえ始めた。
『前の……殺せ……こいつを……』
声、というと少々感触が違う。
電波のノイズ混じりのような音だった。
『……刺せ、心臓を……抉れ……捧げろ……』
それが声だとするなら「前の席の同級生を殺せ」との内容が繰り返される。
空耳かと思い、耳の穴に指を入れてみる。
音量が少し変わった気がしたが、また声は聞こえ続けていた。
家に帰り、ネットで調べてみると、声が聞こえる、いわゆる幻聴というのは、精神の病気にしばしば見られるものだと分かった。
一昔は「神様の言葉」などとして扱われていたもののようだが、現在は病気の一類型に分類されているとの事だ。
神様の言葉にしては物騒だった。
昔の解釈をするなら、悪魔のささやきという感じだろうか。
もしも症状を放置すれば、間もなく声のする状態が当たり前になってしまうらしい。
当たり前になった後は、それが幻聴の類だと自覚出来なくなる。
本当に聞こえている声と考えるようになるから、病気だと言われたら反発する。
何よりも重要なのは、早期に診察を受けて、きちんと薬をのむ事だそうだ。
薬、というと少し抵抗はあるけれど、自分で病気と分からなくなる病気、というところが何より怖い。
「……お母さん」
「なに?」
「私、幻聴が聞こえてるみたい。
翌朝、少し早く起きた私は、朝食の後に母に話した。
「耳の具合じゃなくて?」
「うん。違うと思う」
「そう」
娘の藪から棒の告白に、母はそこまで動じなかった。
少し考えてから、母はスマホを手に取る。
「じゃ、お医者さん、行きましょうか」
「信じてくれるの?」
「あなたのつく嘘にしては、タチが悪いもの」
嘘をつかないとは言われない辺り、理解されているんだか何だか。
でも、不安がふっと解けていった。
「あ、近くにメンタルクリニックあるから、予約入れるわね。今日は学校休みにしときましょ」
「うん、ありがとう」
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