暗い林道、、、
その中をただひたすら走り続ける自転車、、、
そして物言わずただ自転車をこぐ男の人、、、
─ころされる、、、
恐怖のあまり堪らず私は大声をだしました。
「うわあああああああああああ!」
「もうすぐ着くけんが、おとなしゅうしときんしゃい」
男の人が焦った様子で言います。
とうとう最後には無謀にも荷台から飛び降りました。
道路をゴロゴロ転がり、膝を擦りむけながら必死の思いで林の中に駆け込んで行きました。
林立する薄暗い木々の隙間を何度も躓きながら、ただ無我夢中で走ります。
遠くからは、
「お嬢ちゃ~んお嬢ちゃ~ん!
何処におるとね~!?
母ちゃんが死にそうになっとるとよ~!
見捨てるとね~!
早よ出てこんね~」という男の気持ち悪い猫なで声が聞こえてきます。
私は大木の陰に隠れ、男の声や足音がしなくなるのをじっと待っていました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
結局私は何故か、家から3キロほど北方の山裾にある公営墓地の中で発見されたそうです。
墓地内にある立派な大木の陰で膝を抱えて座り、朦朧としていた私を、墓掃除に来た老人が見つけたみたいです。
その時辺りは既にうっすら白んでいました。
その日夜の仕事を終えて帰宅した母は私の姿が見当たらないことに気付き、すぐに警察に連絡したということでした。
もちろん母が倒れたなどということはありませんでした。
それにしても私の母が工場で働いていることを知っていた、あの男はいったい何者だったんでしょうか?
そして私を連れ去ろうとした目的は?
今も時折あの男の顔を思いだそうとするのですが、何故か浮かんできません。
今となっては全てが闇の中なのです。
【了】
無事で良かったです。
子どもの頃、よく「知らないオジサンについていってはダメ。」と言われたものです。
車社会になり、家族に緊急事態が発生したから送るなどと偽り、いわゆる「連れ去り」事件が多発しましたが、当時を思い出し、ぞっとしました。
リアルな犯罪と思いきや、ラストは、心霊現象的な要素も匂わせる謎の事件に。いかようにも解釈可能な名作ですね。
怖いの意味が違う