紫の鏡を忘れたい
投稿者:件の首 (54)
呼び出されて来たAの部屋は、高校時代と大きく変わっていなかったが、オカルトグッズは増えていた。
「1日早い20歳の誕生パーティーでもやるの?」
「……紫の鏡を忘れられないの。何でも良いから、話しかけて! 忘れさせて!」
私の問いに、彼女は泣きそうな顔で言った。
「紫の鏡」とは、20歳までに忘れないと不幸が訪れるという都市伝説。そしてAの20歳の誕生日は、1時間後に迫っていた。
私の返事を待つ前に、彼女は用意したアルコール入りのチョコレートをむさぼり始めた。酔ってやり過ごすつもりだ。
あくまで合法な菓子を選ぶのも、気弱な彼女らしい。
呼んだ割りには会話は弾まず、彼女は食べる方に集中していた。
――残り5分。
「――UMAとしての雪男はぁ……」
Aの呂律が回らなくなっている。
「ゴリラと――うぷっ!」
彼女は部屋から出てトイレに駆け込んだ。
溜息交じりに時計を見ると。
午前0時を過ぎていた。
「あああ」
トイレから出て、部屋に戻って来たAは叫ぶ。
「忘れてない! ダメ、ダメダメダメ!」
叫びながら、壁に頭を打ち付ける。
私は気圧されて出て行こうとする。
「なんで逃げるのぉ!?」
血にまみれた顔で、Aがすがりついて来る。
形相は、悪霊そのものだった。
私はAを突き飛ばし、部屋の外に出た。
廊下には、パジャマ姿のAの両親がいた。
「娘さん、危ないんじゃないですか!?」
両親は、のんびり顔を見合わせる。
「でも、紫鏡、忘れなかったんでしょう?」
「じゃあねぇ?」
なんなんだ。
一刻も早く、この一家から距離を取りたい。靴紐を結ぶのもそこそこに、私は逃げ帰った。
なんなんだ