いち抜けた
投稿者:ねこじろう (147)
─あれ?人がいる……
それはすっかり日も暮れ、街灯にも明かりが灯りだす夕暮れ時のことだ。
賑やかな市街地を抜け、ところどころに田んぼが広がる郊外に入り、一番最後の緩やかなカーブの角に差し掛かったとき、ポツンと人が立っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は二十九歳のありふれた独身女性だ。
仕事はコンビニ弁当の工場でバイトをしている。
それは工場からアパートへのマイカーでの帰路の途中のことだった
直進する県道と、そこから左に緩やかに入る道のちょうど交差したところに壊れかけた廃屋が建っているのだが、その前にその人は立っていた。
上下黒っぽい服を着たひょろりと背の高い中年の男で、何か真剣な眼差しで行き交う車をひたすら目で追っている。
─ヒッチハイクかな?
いや、それにしては手ぶらだけど
などと思いながらハンドルを左に切り、車が国道から左の狭い道に入る寸前、ヘッドライトがまともにその男を照らしだした。
その時一瞬私はその男と目が合ってしまい、背筋がゾクリとする。
というのは男は大きく開いた血走った瞳で確かにニヤリと笑ったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その日を境に毎日私は仕事の帰り道、あの男を見るようになる。
残業で帰るのが遅くなった日も、逆に早く仕事が終わった日も、来る日も来る日も男はあの場所に立っていた。
そして横を通り過ぎるたび、あの血走った目で私の姿を追うのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから月日は過ぎ、
それは梅雨明けだというのにやけに肌寒く朝から雨が降り続けていたある日のこと。
夕暮れ時、いつもの通り私は仕事を終えてアパートに向かっていた
いつもの市街地を抜け、いつもの最後のカーブに差し掛かった時、異常に気付いた。
─あれ、いない!?
あの男がいないのだ!!
なぜだろうか私は急に不安になり必死に男の姿を探す。
そしてそれはわずか数秒のことだった。
その時には既に1台のトラックが正面にまで迫っていた。
強烈な眩いライトで車内がパッと明るくなり、耳をつんざくようなクラクションの音と黒板をかきむしるような不快なブレーキ音が聞こえたかと思うと、激しい衝撃とともに私は、体ごとフロントガラスを突き抜けていた。
その後は……その後は……
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。