「つまり、割合を多めにしてランダムでオバケを設置するんだよ」
目の前の山岸さんはお化け屋敷などにも出資しているという。
「そうするとさ、オバケを観たやつと観なかったやつが話した場合、観なかった方は『あれ、そんな展示あったっけ?』ってなるだろ?でも大多数は観てるわけだ。」
一見ラフな格好だがどれも高級ブランドのものだ。おそらく俺が人生10周しても得られない金を、そんなに年の離れていないはずのこの人は既に持っている。
「で、ホラーなんて周りとわーきゃー言うのが醍醐味だから、観なかったやつも話を合わせるよな。『あったあった』って。で、だんだんそいつの中で本当に『観た』ことになってくるわけよ。周りの話からオバケを想像してさ」
「俺が思うに、そいつが想像したオバケってのは本当に見た奴よりも深く刻み込まれると思うわけ。オバケってのはさー、後から追いかけてくるもんなのよ。もちろん、これは例え話だよ?」
そこまで話して山岸さんはチラリと左腕のロレックスを見る。多忙な身なのだろう。
「…それは、俺とどう関係してるんですか?」
ようやく俺が口を開く。
「君さー、幽霊見えるんでしょ?」
「……はい。え、それBから聞いたんですか?」
Bとは大学時代の同期のことだ。
山岸さんはうなづく。
「君の話は詳しく知ってるよ。本当に呪われてる人なんて珍しいからね」
そういうと、カバンから一冊のキャンパスノートを取り出した。
「これ、今度の企画で使おうと思ってる小道具。見てみて」
言われた通りに、ノートをパラパラとめくる。だいぶ束縛の強い大学生が彼氏について書いている日記のようなものだ。「今日は××君とどこどこへ行った。××君は何を着てどういう話をして香水はなんだったか」と言うようなものがびっしり書き込まれている。
しかし後半になってくると様子がおかしくなってくる。彼氏の浮気を疑っているらしい。そしてそれは的中したようだ。だんだんと文字が荒くなって、言葉遣いも「あの女を殺す」だの「呪うだの」が出てきたあたりで、最後のページ。
血文字で大きく「死ね」と書かれている。
「ど?」
山岸さんがニヤニヤしながら聞く。
「はあ……まあ、」
と曖昧な返事しかできない。どう?と言われてもチャチな文化祭レベルの代物だなあ、としか思えない。
「それさ……『本物』なんだよね」
沈黙が流れる。
どう返事したら良いのか、考えあぐねているところに山岸さんが笑い声をあげる。
「それ、あげる」
ひとしきり笑って、なお笑いを噛み殺しながら話す。
「いやいや、君もわかっているよね。これが本物かどうかなんてどうでもいいんだ。重要なのは、私が、君にこれを『本物だ』と言って渡したことだからね」
山岸さんは、頼んだアイスコーヒーには手もつけていないが、一万円札と封筒を机に置いて立ち上がる。


























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