体育倉庫

　４０年程前、小学４年生だった私のクラスでいじめがあった。
　標的になっていたのはＡという男子だった。
　Ａは容姿も学力も運動も平均以上の優秀な児童だったが、クラス全体が敵に回れば、太刀打ち出来るものでもなかった。

　その日の放課後、校庭の片隅で、私たちはまたＡをいじめていた。
　テレビの真似をして、プロレス技を一方的にかけていた。
　そして３人がかりでバックドロップをやった時、彼は意識を失った。
　責任を問われると思った私たちは、Ａを校庭の傍らにある体育倉庫に押し込み逃げた。
　そして翌日、担任の先生はＡの転校を告げた。

　先週、当時のクラスメイトの１人が白骨で発見された。
　警察の調べでは、熱が加えられた形跡がない事から、アルカリで処理されたとの見解だ。
　犯人は見つかっていないが、元クラスメイト達は、あの時の状況から犯人がＡだろうと考えている。

　Ａはあの時、体育倉庫内でラインパウダーまみれになった。
　小学生には知るべくもないが、当時のラインパウダーは消石灰で、水に溶けると強いアルカリ性を示し、人間の蛋白質は分解される。
　汗で濡れていたＡの皮膚はボロボロに浸食され、恐らく入院したまま転校になったのだ。

　Ａが何番目に私を狙うのかは分からないが、私はそれほどいじめに積極的ではなかった。
　まずは技をかけた２人だろうし、その後も５、６人は先にやられるべき連中がいる。
　警察も無能ではない、流石に私の番までには、逮捕してくれるだろう。