俺の母方の祖父が戦争帰りで地獄のインパール作戦から生還した軍人だった。
祖父の部屋を片付けるとかつての若い頃の写真を見たこともある。
長兄が祖父を怒らせたこともある。思想は好きじゃなかったが。
そんな祖父でも一番怖いことがある。
「老い」だ。
年を取っていくと回避できないこともある。認知症となることもある。
子供の頃の俺と次兄、母が祖父の家にいた時、祖父は認知症をわずらい警戒心が強くなった。
警戒心の強さは日に日に上がっていく。
次兄がようをたそうとして帰ろうとしたときだった。祖父の部屋から「コラァっ!」と高く声が聞こえた。次兄は逃げ出し母が言いくるめた。
次に俺。
俺もトイレへ向かった。トイレが終わった後だった。
突然、祖父の部屋で音が聞こえた。
俺は動きがとまり様子をうかがうも何かに気づき母の部屋へ戻った。
祖父が追いかけてきたのだ。追いかけてきた祖父に俺は恐怖し母が座っている椅子に隠れた。母は祖父を説得し帰らせることに成功する。
後に俺はこのことについて「人生で一番怖かった」と言う。
俺はさらに思う。この時の祖父の感覚は若い頃、つまり第二次世界大戦の兵士に戻っていた。チンピラの出す威圧や怒った教師の怒気と違う。
紛れもなく戦場を生き抜いた殺意だ。
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