口元が派手な婆さんだった。山中の雑貨屋には似つかわしくない口元をしていた。
愛想笑い。レジ横の椅子に腰かけてニコニコと笑っている。その口元が金色に煌めいていた。
金歯。金歯。金歯。
口を閉じていれば、小さくて、かわいらしいお年寄りなのかもしれない。
だが、口元が全てをぶち壊していた。
口を開いた婆さんは、一言で言って、うさん臭かった。
田中と加賀がスマホを覗き込んで話している。
「それで、ここで何を買うんだって?」
「ええと、お札を買えって書いてあるね」
そうだった、ここでアイテムを買うんだった。
「お札かい?」
婆さんが、レジに立てかけたホワイトボードを指差している。
お札 10000
「一万円!」
「高!」
「こんなの買うやついるの!?」
俺たちは、驚いて叫んだ。
婆さんがニヤリと笑う。口元が煌めいた。
「お前さん達、肝試しじゃろ?上のトンネルで」
三人でうなずいた。
「夏の季節には、お前さんらみたいな人がよう来る」
婆さんは、ウンウンと頷きながら言った。
「みんな、夜中に来るもんだから、こんな時間でも店を開けとるんよ」
「なにしろ、上に行く人に、お札を持たせないわけにはいかんでの」
「やっぱり、お札は必要ですか?」
スマホを見ながら、加賀が念を押すように聞いた。
「持っとった方がええ」
口元を引き結んだ婆さんが、絶対の真理の様に告げた。
「この札は、ふもとの神社で払ってもらった、霊験あらたかなもんじゃ」
「その土地の悪霊には、やっぱり、その土地の物が一番効くからの」
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