お札の値段
投稿者:ろーどくだもん (2)
口元が派手な婆さんだった。山中の雑貨屋には似つかわしくない口元をしていた。
愛想笑い。レジ横の椅子に腰かけてニコニコと笑っている。その口元が金色に煌めいていた。
金歯。金歯。金歯。
口を閉じていれば、小さくて、かわいらしいお年寄りなのかもしれない。
だが、口元が全てをぶち壊していた。
口を開いた婆さんは、一言で言って、うさん臭かった。
田中と加賀がスマホを覗き込んで話している。
「それで、ここで何を買うんだって?」
「ええと、お札を買えって書いてあるね」
そうだった、ここでアイテムを買うんだった。
「お札かい?」
婆さんが、レジに立てかけたホワイトボードを指差している。
お札 10000
「一万円!」
「高!」
「こんなの買うやついるの!?」
俺たちは、驚いて叫んだ。
婆さんがニヤリと笑う。口元が煌めいた。
「お前さん達、肝試しじゃろ?上のトンネルで」
三人でうなずいた。
「夏の季節には、お前さんらみたいな人がよう来る」
婆さんは、ウンウンと頷きながら言った。
「みんな、夜中に来るもんだから、こんな時間でも店を開けとるんよ」
「なにしろ、上に行く人に、お札を持たせないわけにはいかんでの」
「やっぱり、お札は必要ですか?」
スマホを見ながら、加賀が念を押すように聞いた。
「持っとった方がええ」
口元を引き結んだ婆さんが、絶対の真理の様に告げた。
「この札は、ふもとの神社で払ってもらった、霊験あらたかなもんじゃ」
「その土地の悪霊には、やっぱり、その土地の物が一番効くからの」
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。