お札の値段
投稿者:ろーどくだもん (2)
「いや、でも、買わない奴もいるでしょ」
田中が、食い気味に言い返す。
「おるよ」
婆さんがニヤリと笑う。
「お前さんたち、よく聞きなさいよ」
「確かに、お札を持たんで上に行く人間もようけおる」
「だけどもな、みんな、青い顔して帰ってきてな」
婆さんが俺達を見回す。
「ここで、お札を買っていくんよ」
「でも、一万は高すぎ」
田中がぼやいた。
婆さんが捲し立てる。
「そう思うかもしれんが、後で買うか、今買うかの違いじゃぞ」
「それに、札一枚で四人まで面倒をみられる」
「一人分、たったの二千五百円ポッキリじゃ」
婆さんが、ヒヒヒッと笑った。
「まあ、お客さんらは三人じゃから、少々割高になるがの」
口元が煌めいた。
「さあ、どうなさる?」
「ねえ、やっぱり、お札を買っといた方が良かったんじゃ…」
後部座席から、加賀が不安げに尋ねる。
「お前は、ビビりすぎ。そして、一万は高すぎ」
助手席の田中が、いつものようにおちゃらけて答えた。
「まあ、婆さんも言ってたろ」
俺も、加賀に声をかけた。
「ホントに出たら、帰りに買えばいいさ」
「うん…」
「それで、なんて書いてんのよ?」
田中の質問に、スマホをスワイプしながら、加賀が答える。
俺たちは、トンネル前で突入の手順を確認していた。
「えーっと、トンネル往復だって。スピード。遅ければ遅いほど良いらしいよ」
スワイプ。
「それで、トンネルの先で、道が急に狭くなるから気をつけろって」
「アレが出ても慌てるなって、アクセル全開で突っ込むと、助からないらしい」
「怖。その道、行き止まり?」
スワイプ。
「抜けられるけど、道が狭い、悪いで、おすすめ出来ないって」
「行きに出ても、頑張ってトンネルを戻れって」
スワイプ。
「お札があれば大丈夫。無かったら、帰りに買えだって」
「なあ」
田中が、うんざりしたように言った。
「そのサイト、あの金歯が書いてんじゃねーの?」
ちょっと、面白かった。
「よし、それじゃ行くか」
俺が言うと、二人が頷いた。
トンネル前で停車。やば、ちょっと緊張してきた。
「ねえ、少し寒くない?」
加賀がつぶやく。
「山の上だから、涼しいんじゃね」
「たしかに、それじゃ冷房切っとくぞ」
俺は、冷房を切ると、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
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