わらう女
投稿者:HOD (11)
今から20年ほど前の話です。
個別指導の形態の学習塾が盛んになってきた頃でした。
私はその波に乗り、自分で塾を始めようとしていました。
駅前は集客数があるかもしれませんが、賃料が高く厳しかったので、
駅からバスで20分ほどの団地の近くに場所を借りて始めることにしました。
団地と一軒家の集落の間の三叉路にポツンとその建物はありました。
向かいには柳の木が一本あり、建物と柳の木がお互いを見つめているような不思議な感じでした。
白くて三角形の形をした建物の一階には葬儀屋さんが、2階が空室、
横に駐輪場付きで賃料が8万円でした。
事務所店舗の家賃はこれまで15万〜と説明されてきたこともあり、
駐輪場、三叉路に一軒だけあることで、とても目立つ場所で好条件だと思いました。
内覧後、すぐに契約をして、看板やら内装やら、と塾を始める準備を始め、
ご近所にはオープン2カ月前から新聞紙に広告を入れるようにしました。
下の葬儀屋に挨拶をしようと何度も訪ねたのですが、いつも不在でした。
葬儀屋といっても、香典返しなどのお品を置いている倉庫のようにも見えたので、
普段はいないのかな、程度の認識でした。
兄が事業をしていた関係で、看板も広告も特別価格でしてもらえました。
机と椅子を教室スペースに運び入れ、事務所スペースにはソファとパソコンデスク、
資料置き、本棚と準備しました。パソコンデスクに電話も設置し、回線を契約しました。
いよいよ明日から問い合わせスタート、となり、
私はこれまで準備を手伝ってくれた感謝を込めて、
兄家族、母、を教室に招待しました。
兄家族には、2歳になる女の子がいました。
私と姪はとても仲良しで、姪っ子は喜んで来ましたが、教室に登る階段あたりから、ぐずり始め、
普段なら私に抱きついてくるのに、その日は母である義姉にピッタリくっついて離れようとしませんでした。
母は、柳の木と1階の葬儀屋を見て、車の中とは違い無言になりました。
義姉が抱っこして教室に姪っ子を連れて入り、奥の事務所スペースに来た途端、
姪っ子が、いや、いや、と空中に向かって手をバタバタと何かを振り払うような仕草をしました。
母も、お仕事の場所だから、子どもには怖いのかしらね、と言い早く切り上げて帰りたそうに言いました。
まあ、見てもらえたしいいか、と私は思い、帰ろうか、と言いました。
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