未だにあの子供がこっちを見ている。
虹彩が塗り潰された様な暗く沈んだ双眸が俺達を、いや、俺を見ていた。
俺は放心していたAを横目に立ち上がると、入口へと向かった。
Aがどうして答えてくれないのかは分からないが、その答えをあの子供が握っていると言うのは分かる。
それならば、直接あの子供の所まで行ってAに何をしたら聞けばいい。
思い立ったら即行動。
俺がドアを開ける直前、アニソンを熱唱するBが「トイレか!?ついでにコーラ頼んでくれねえ!」とマイク越しに注文してきたからとりあえずOKのハンドサインを出して部屋の外へ出る。
そして、俺はすぐに右手側を振り向いた。
しかし、そこには誰も居なかった。
煌々と輝く証明に照らされた廊下とその突き当りがあるだけで、あの子供は忽然と姿を消したのだ。
一体どういう事だろうと、俺は突き当りの壁に貼られた地元の夏祭りのポスターを一瞥し、どこかに隠れられそうな場所が無いか確認する。
と言っても観葉植物しか置いていないので、いくら小学生でも体全体を隠す事は出来ないだろう。
じゃあ、あの子供は何処に消えた?
俺はさっきまで子供が立っていた位置に並び、廊下から部屋の中を覗いてみると、はっきりとは見えないものの、気を取り戻したのかAが立ち上がって手を振ってるシルエットが見えた。
結構元気そうだから安心した俺も手を振り返してやると、どうやらAは単に手を振っていただけではない様で、時には指差したり手をこまねいている仕草を取り入れる。
全く持って理解できないジェスチャーだったが、Aの異常行動が気になったのかマイクを携えたままBが近づいてくると、Aに習い俺の方を向く。
するとどうだろう。
Bはみるみるうちに表情を強張らせたかと思えば、Aと同じ様に指を差したり、両手を使ってまるでかかってこいと言わんばかりに仰いでいる。
最初は二人の行動の意味が分からずに首を傾げながらもジェスチャーゲームを楽しんでいたが、俺はどうやらその意図が解けてしまったようだ。
それは二人のジェスチャーが卓越していた訳ではなく、二人を観察する為にガラスを注視した結果だった。
そう、ガラス越しに映る俺のシルエットの背後、そこからあの子供が目から上だけをせり出して覗き込んでいたのだ。
肩の辺りからキノコの様に生えている子供の目線を察知してしまった俺は、ガラス越しではあるものの目が合ってしまった。
位置から考えて子供の背丈ではありえない。
高校生くらいだとしてもせり出した顔の部分以外の身体が見えないのもありえない。
俺は干上がりそうな喉の渇きを覚えながらも、どうしてか体が動かす事が出来ずにいた。
すると、何やら逆側の廊下の曲がり角からガヤガヤと若者の声が聞こえてくる。
曲がり角から数人のグループが姿を現すと、途端に俺の肩の力がどっと抜けていくのが分かった。
体が動くようになったのですぐに振り返ってみたが、そこには反対側のガラス、空室となっている部屋の壁面があるだけで子供の姿は無かった。
俺が呆気に取られていると部屋からAとBが飛び出してきて、
「お前大丈夫か!?」
カラオケボックスって幽霊でるところ多くない…?
いや、それな?怖すぎて一回しか行ったことないんだよね( ;∀;)
心霊体験はしなかったけど、カラオケボックスは賑やかで楽しそうにしているから霊たちが
寄ってくるんだと思う。あくまでも私の予想だから。