竹林の中で聞こえる杖の音
投稿者:うなぎいぬ (1)
この話は私が小学校3年生ぐらいの頃の出来事だと記憶しています。私の育った町はいわゆる郊外型の新興住宅地で、山を切り開いて作られた町です。私の通っていた小学校はこの新興住宅地(X地区)とそのX地区の山の麓にあるY地区の2つの地域Yの子供が通っており交流がありました。
ある日、私はX地区に住んでいるA君と一緒にY地区に住んでいるB君の家に遊びに行ったその帰りのことです。その日はゲームが白熱し少し帰るのが遅くなり、辺りは暗くなり始めていました。今から帰ると6時を大きく越える可能性がありました。
そこでA君が言いました。
「オレ近道を知っているから、そっちから帰ってみようぜ。」
X地区とY地区との間はまだ切り開かれておらず山が残っており、車の通れる道は一つしかありません。その唯一の道を通って帰るしかないのですが、A君が言うにはB君の家の近くからX地区に繋がる近道があるというのです。A君は続けて言います。
「車の通れない林道があるんだけど、あの道と違って直線距離で行けるから早いと思うぜ。」
正直私は乗り気ではなかったのですが、渋々ついて行くことにしました。その近道の林道の入り口は神社の脇から山の方にのびておりました。奥に進むと右側に墓地が並んでいます。墓地は普段よく見る四角柱型のタイプではなく、古いものに見えました。この辺りから街灯はなく夕暮れの日差しを山が遮り薄暗くなってきました。ビビっている私を気にせずA君は先に進みます。
「お前は恐がりだな。大丈夫だよ、以前も使ったことあるからさ。」
墓地を抜けると、林道がありました。だいぶ暗くなってきており、私たちはA君が持ってきていた懐中電灯を頼りに進みます。地面は草木が刈られ石が蒔かれて道になっており、使う人が時々いる雰囲気はありました。奥に進むと今まで樹木の林だったのが、竹林の地帯になり雰囲気が変わった気配を感じました。樹上の枝葉もなく、間隔も広いため道の周囲が少しわかるようになりましたが、それが余計私の恐怖を増しました。道を進むと右手の竹林の奥に荒れた小屋があるのが見えました。恐らく作業小屋のように見えましたが、若干生活の気配も感じました。
その時です。道の先からコツ、、、コツ、、、コツ、、、と何かが近づいてくる音が聞こえました。A君も異変を感じ歩きを止めました。A君と私は立ち止まり音の方向を注視していると、道の先から人の形をした何かがコツ、、、コツ、、、コツ、、、と近づいてくるのがわかりました。A君は私に目配せをして、その方向に懐中電灯を向けました。そうすると私たちの10mほど先から、「るろうに剣心」の「志々雄真実」のように包帯を巻いた杖をついた歩いてくる男が見えました。私は思わず声を出してしまいましたが、その包帯男は表情を変えず(包帯でわからないが)私たちの方向にコツ、、、コツ、、、と歩いてきます。私たちは道の脇に移動し、私は包帯男が来た道の先だけを見て、その男が過ぎるのを待ちました。包帯男は結局私たちには目もくれず通り過ぎました。私はその男が恐らく10m以上離れるまで、気が遠くなるような時間を体を動かさずに待ちました。その時間の中でとりあえず私は何も反応がなかったことから、あえてその男は幽霊のような存在であり、気のせいだということに頭の中で結論づけて、男が過ぎた方向に振り返りました。
そこには私の1m程度の距離に立つ先ほどの包帯男がいました。今回は明らかに私の方を見ています。私は逆の方向、つまり帰る方向に向かって走りました。10分くらい走ると竹林を抜け開けたところに出ました。そこは工事現場になっており、その場所からX地区の町の街灯が見えました。そこで気が抜けて息を整えていると、A君も追いついて来ました。
「やべえよ!やべえのを見てしまった。ありゃ何だ?あいつずっとお前のこと見てたぜ。」
A君は包帯男を目で追っていたらしく、やっぱりあの男は通り過ぎず私のすぐ後ろで私の方をじっと見ていたらしい。その後、A君に家の近くまで付いてきてもらって帰りました。
あの後、改めて人に聞いたがあの竹林には小屋もなく、当然人が住んでいるわけでもないらしく、結局は幽霊のようなものだと自分を納得させ忘れることにしました。あの道には二度と通ることはありませんでした。だが成長して色々と地元について調べると、墓地の奥から竹林のあった一帯は昔はY地区ではやり病になった人間や差別された人間が住んでいた場所のようでした。そのためX地区ができた際は、開発地域から外されたのかもしれません。ちなみに今はその場所は住宅地になり人が住んでいます。
あり得るから怖い…
新興住宅地って元は何だったのか調べた方がいいよね。