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ヒトコワ

バクシマさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

いとしのカノジョ
長編 2022/04/09 02:08 8,020view

それは私が高校時代のことです。
当時私は同じクラスの女子と付き合っていました。
彼女はとても優しい娘でした。
彼女はとても情の深い娘でした。
彼女の笑顔はとても眩しく、その笑顔を見るたび、私は心を奪われるのでした。
・・・これは秋の夕暮れどき、下校時のことです。
彼女と一緒の下校。私は幸せの絶頂でした。
秋風が道を疾りぬけました。本来なら身体を凍えさせる冷気も、彼女の傍にいると二人の一体感を感じさせる良きスパイスでした。
彼女は、ふと歩みを止めます。
道端の看板を見ているようです。

それは、葬儀の案内でした。
「故 〇〇〇〇儀 葬儀式場」とあります。
「知ってる人なのかい?」
私は彼女に尋ねました。
しかし彼女は首を横に振ります。
「知らない人よ。でもね、誰かが亡くなるのは、寂しいことじゃない?」
「そうだね。でも、顔も見たことない人の葬儀に心を向けるなんて、君は本当に優しいんだね。」
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、あたしとっても嬉しいわ。でも、そうね。
もし、亡くなった人がどんな人だったかをみんなが知れば、通りすがりの人も故人を偲(しの)んでくれるのかしら。」
彼女はそう言うと、私の腕を引いて、また歩みを進めるのでした。

それから日が経ち
私が町を散策していると、またしても葬儀の案内看板を見つけました。
日頃は、およそ故人と無関係であろうから、珍しい古風な名前でもない限り気にも留めず素通りするのですが、この時は思わず立ち止まり看板を凝視してしまいました。
・・・その看板には、故人の写真が据えられていたのです。
それも、葬儀業者の丁寧な仕事ではなく、いかにも素人がやったふうな、ポロライドカメラで撮って排出された写真をそのまま看板に貼り付けたようなものでした。
さらに気味が悪いことに、被写体の老人は、遺影の写真のような落ち着いた佇まいではなく、驚いているような、あるいはなにかに恐怖したような表情をしているのです。
・・・なんと、おぞましいことをする人もいたものです。
よほど故人に恨みのある人がしたのでしょう。
しかし、陰湿な。どこまでも陰湿な・・・
異常者の闇に触れ、身体に虫唾を走らせた私は、再び帰路を歩みました。
物悲しい風が道に吹き荒みました。

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