「これは私の愛人のサブが他の男と服毒心中を図ったあと、恥ずかしくも生き延びて運び込まれた病院での話です。その病院の関係者は昔から若々しいままらしく、吸血鬼の病院だなんて噂がありました。本当、災難だったわ。
それは入院初日の夜のことです。サブが口腔内の違和感で目覚めると、看護師が寝ている自分を覗き込んでいました。そして眼から赤い液体が垂れ、自分の舌に滴っていたのだそうです。怒声でも浴びせれば良いものを、サブは気絶してしまいました。従兄弟として情けない。翌朝、サブは病院を出たいなどと我儘を言うものですから叱りつけてやりました。薄情者よね。
そして二日目の夜です。寝ている間に四肢を革ベルトで縛られていました。そしてサブの腕の血管には注射針が挿入されていましたが、輸液チューブの先を目で追うと、金属性ののタライに繋がれていました。そこに看護師が赤い粉と水を注いでおり、チューブを通して赤い液体としてサブの血管に侵入してるのです。不甲斐なくもサブはまた失神してしまいました。しかも、その翌朝も逃げたいなどとのたまうものですから私は立腹しました。縛られたくらいでなんですか。きつく罵ってやりましたよ。酷いわよね。
三日目の夜も病院で過ごさせました。しかし、朝になるとサブは冷たくなっていました。真っ青な顔で死んでいるサブ。なんでこんなことに。あの病院に入院していれば、永遠に若々しいサブでいられるはずではないのですか!? だから私があの病院にわざわざ運んだのに。それにまさか男の看護師もいたなんて。油断がならない。私は医者に怒鳴り込みましたよ!あのときは少し嬉しかったわ」
「それで、医者は何か弁解したのですか?」
「……サブはアナタの頭の中にしかいませんよ、ですって」
「え?」
「あははは。私、勘違いしてました! いやあね、まったく」
……トシと名乗る偶然に酒場で隣に座った男は、俺にそんな話をしてくれた。口調がころころ変わる妙な奴だった。
その男の退店後、話を一緒に聞いていた酒場のマスターが教えてくれた。
「あいつ昔、父親に虐待されて、それを苦に自殺しようと水銀を飲んでから狂っちまったそうだよ」
……俺は薄ら寒くなり、さっさと会計にした。
俺が店を出る間際、マスターは呟いた。
「サブの野郎、まだいたのか……」
かたや店の外にはトシが立っていた。
そして、呟いた。
「彼と心中したのよ」
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