餓鬼道の女
投稿者:LAMY (11)
『そういえばお前さ、高嶺さんって覚えてるか』
不意に話を振られた藤城さんは率直に嫌な気持ちになったという。
あの日のことは彼の中で、もう思い出したくない気味の悪い出来事だった。
よりによってこんな席でなぜあの部屋と、あの部屋にいたもののことを思い出さなければならないのか。
その話はよせよ、と言う藤城さんの言葉を無視して、彼の友人は続けた。
『あの人さ、逮捕されたらしいんだ』
聞いた瞬間に──ゾッとした。
何故そうなったのか想像がついたからだ。
そも、よくよく考えてみればおかしい。
“とっくの昔に堕ろした”と高嶺さんは言っていたが、あの時見た子供は、低く見積もっても三歳か四歳くらいに見えた。
本当は、堕ろしてなどいなかったのではないのか。
あの日部屋中に立ち込めていた異様な臭いは、要するに“それ”の臭いだったのではないのか。
あの日。
自分が彼女と情事に耽った部屋のどこかに、あの子供の死体が、あったのではないのか。
『自分の子供が動かないって救急車呼んだんだと。もう何週間もまともな飯食わせてなかったらしい』
『前の日までは元気だったって言い張ってるらしいけど、そんな訳ないよな。やばい女だとは聞いてたけど、まさかここまでとはなあ』
答えは違った。
あの日、あの部屋に死体などなかった。
あの時、あの部屋にいたのは。
「子供、だったんですよ」
……未だに藤城さんは、あの子供の顔を夢に見るという。
落ち窪んだ目、色の悪い肌、虚ろな目と感情の浮かばない能面のような形相。
飽食の時代に生まれていながら、飢え死にという最期を遂げねばならなかった子。
彼はあの日、何を思って自分を見つめていたのだろう。
それが優に想像できてしまうからこそ、藤城さんは女性を求めることを辞め、生涯世帯を持たないことを決めたそうだ。
面白かったです
こええ…
すげぇ語彙力。
絶対この人プロでしょ。
表現力や言葉選びが一般人のそれじゃない。
文章力に意識が引き込まれて、内容よりもどれだけ引き出しがあるのだろうとそっちの方が気になってしまった。
次回も楽しみにしてます。
いやいやすごい怖いし文章が上手すぎる
「生きてる人間が一番怖いなどと月並みなことを言うつもりはないが。」この一文がナチュラルに出てくるのは良いです。怪談好きを前にして「やっぱり一番怖いのは人間だよ。」とか言い出す人は基本信用ならないです。
怖かった。風呂場で子供の死体発見する奴と似た話っぽいが。怪異と目があっても最後まで致せるのすごいなww
コメント欄の異様な褒めっぷり含めて気味が悪い