餓鬼道の女
投稿者:LAMY (11)
我ながら当時は猿だったと藤城さんは振り返っていたが、しかし生憎、この夜に限っては彼はとことん美味しい思いが出来なかった。
「いざ始めてみたら、全然気持ち良くないんです。遊んでる子の相手をするのなんて珍しくもなかったんですけど、それにしてもちっとも具合が良くなくて。
正直、始めて早々に萎えちゃって……早く終わらせて帰って寝たい、その一心で腰振ってました」
情事に没頭出来ないとなると途端に部屋の臭いと散らかりようが気になってしまう。
腰を振りながら、それにしても汚い部屋だな……と思いちらりと部屋を見回す。
別に潔癖症というわけではないが、流石にこれはないだろうと藤城さんは引いていた。
こんな部屋で暮らしていたら変な病気になりそうだし、そもそも虫が涌いたりするのではないか。
今が夏場でなくて本当によかった、なんてことを思いつつ怖いもの見たさの目線で部屋を検分していく中で──
目が合った、のだという。
「ベッドの位置からキッチンが見えるんですよ。
で、キッチンの陰からですね……ひょこっと顔を出してる奴がいたんです。
子供でした。ガリガリで、目元にくっきり茶色っぽい隈が浮かんでて、目も虚ろで……」
心臓が止まるかと思ったし、実際藤城さんは思わず叫び声をあげてしまった。
部屋の電気は常夜灯に切り替えられていたので室内は薄暗かったのだが、キッチン側の窓からは外灯の光が差し込んでおり、そのせいで件の子供の顔がはっきりと浮かび上がっている。
酔いと欲望が冷めてきて、藤城さんはようやくその存在に気付いた。
『あ、あれ! 何かいるって!!』と情けない声をあげて動揺する藤城さん。
しかし当の高嶺さんは動じた風でもなく、『あぁ、大丈夫大丈夫』と笑ったという。
そして、こう言ったのだそうだ。
『アレ、とっくに堕ろした奴だから』
……結局藤城さんはその後、情事をきちんと終わらせた上で部屋を後にした。
もちろん本心ではすぐにでも部屋を飛び出したかったが、とても出来なかったと彼は言う。
「だって、あっけらかんとそんなこと言える人間って絶対やばいじゃないですか。
機嫌損ねたら何されるか分からないし、なるべく穏便に済ませないと……って思って」
もちろん部屋を出るなりすぐにタクシーを呼んで家に帰り、交換していた高嶺さんの連絡先を消した。
服を脱ぎ捨てて風呂場に行き、念入りに泡をまぶして体を清めたのも言うまでもない。
後日知り合いに(流石に部屋の中で見た子供の話は出来なかったそうだが)それとなく高嶺さんのことを聞いてみたところ、案の定彼女は相当節操のない男漁りを繰り返しているクチだということだった。
これに懲りた藤城さんは以前ほど派手な遊び方をしなくなった。
相変わらずよく遊ぶ女の子は多かったが、新規開拓をしなくなった──とでも言おうか。
しかし、まだ一般的に見れば十分に派手な生活を送っていたそうである。
そんな藤城さんが女性関係を軒並み断ち、全くその手の遊びをしなくなったのは……半月後。気心の知れた男友達だけで宅飲みをしていたある日のことだった。
面白かったです
こええ…
すげぇ語彙力。
絶対この人プロでしょ。
表現力や言葉選びが一般人のそれじゃない。
文章力に意識が引き込まれて、内容よりもどれだけ引き出しがあるのだろうとそっちの方が気になってしまった。
次回も楽しみにしてます。
いやいやすごい怖いし文章が上手すぎる
「生きてる人間が一番怖いなどと月並みなことを言うつもりはないが。」この一文がナチュラルに出てくるのは良いです。怪談好きを前にして「やっぱり一番怖いのは人間だよ。」とか言い出す人は基本信用ならないです。
怖かった。風呂場で子供の死体発見する奴と似た話っぽいが。怪異と目があっても最後まで致せるのすごいなww
コメント欄の異様な褒めっぷり含めて気味が悪い