自死を選んだ人は霊となってさまよい続ける、とか、その土地に縛られる、という言説を聞いたことはあるでしょうか。
私の友人が聞いた話だと、死の瞬間に強い思念を抱いていると、その空間?に電波だとか情報だとかがシミのようにこびりつくのだそうです。(また聞きなので、あやふやですみません。)
なので、無念を抱いて死を迎えることの多い自死者が“こびりつき”易いのですが、全ての自死者がシミになる訳ではなく、また全てのシミが自死者であるとも限らないそうです。
さて、前置きはここまでにして。
これまた私の友人が親戚から聞いた話という、なんとも信憑性の低い話ではありますが、ぜひお付き合いいただければと思います。
友人の親戚──Kさんは、身内とその身内くらいを対象に霊的なお悩みを解決するボランティアをしている、まあ、有り体に言ってしまえば霊能力者ということらしいです。
一度写真を見せてもらったのですが、特にデンパな感じもせず、スキンヘッドで身長が高く威圧感が否めないことを除けば、好青年といった印象を受けました。
私は霊感がないので、見た目以上の情報は受け取れませんが、見る人が見ると結構強い力を有しているとのことでした。
Kさんの霊能力は、霊の気配を感じる、霊を見る、霊と話す、霊を触るといったことを可能にするようです。
その日も、大叔父の会社で怪現象があったとかで、Kさんは土曜の昼に人気の少ないビル群を歩いていました。
「おっ……と。」
地面にうつ伏せで倒れている男性……のようなものが目に入り、Kさんは一瞬立ち止まりました。
地面に伏したそれは、しかし腰あたりから天に向かって反っており、ちょうどカーブの緩やかなシャチホコのようになっていたといいます。
これが、“シミ”です。
死の直前の形で固定され、何年も、長ければ何十年もそのままなこともあるとKさんは言います。
Kさんは、いつもの如くそのシミを霧散させようとしました。
いくら動かないとはいえ、この世ならざる存在がいつまでも往来にあるとやはりよろしくないらしく、煙草の煙を払うように、ブンブンとかき消してやるのだそうです。
一歩、二歩、……シミとKさんの距離が二メートルほどになった頃でしょうか。
ピクリ。
気のせい、ではないことをKさんの直感が告げます。
一歩、二歩、……目線は外さず、じりじりとKさんは後ずさります。
ピクリ。
もう一度身を震わせた“シミ”は、急に足を地に降ろし、ムクリとさも人間かのように立ち上がりました。
ブルブルと全身が小刻みに震え、目も、口も、墨を食ったかのように真っ黒だったそうです。
踵を返し全力でその場から逃げるKさんの後ろ数メートルから、明らかに尋常ではない圧が迫ってきます。
走っても、走っても、背後の気配は消えないどころか、じわじわと近付いてくるようです。
コンビニに人がおり、追いつかれる前にギリギリたどり着けたのは、正直運だったとKさんは言います。
奇異の目で見るコンビニ客を尻目に息を整え汗を拭うKさんの耳元で、
この世のものじゃないものが見えるって大変ですね。