最寄りの駅からバスで数十分の場所に実家があるのだが、その日は雪が降っていたこともあり、贅沢にタクシーで向かうことにした。積もりはしなかったものの、臓器が震えるほどの寒さに車内の暖房は心地よかった。眠ってしまいそうな目を擦り、タクシーに乗った時の習慣である「運転手から聞かせてもらう体験談」を期待し話しかける。
「出先では降ってなかったんですけど、こっちに帰ってきたら急に降ってきて」
「積もるんですかねぇ。出先にはお仕事で?」
「いえ、実は今引越しを考えてまして内見に」
「この辺の方なんですか?」
「はい。しばらく住んでいまして」
「そうですか。実は僕もなんですよ」
実家の最寄駅で仕事をしているので、ここが出身でも不思議はない。しかし偶然一緒になったというのはまた珍しいことだ。同郷ということで話に花が咲く。
「お客さん、おいくつですか?」
「二十九歳ですよ」
「え!?私、二十八ですよ!」
出身だけではなく年齢も近い。流行っていたアニメや漫画、音楽の話題でさらに話に花が咲き続けた。
「お客さんはどこの中学校ですか?」
答えると出身の中学校も同じだった。それだけではなく、卓球部というところまでも同じ。
「あの‥お名前聞いてもいいですか?」
「有野です」
「え!?有野先輩ですか!?」
運転手は僕の同級生の名前をスラスラと言い始めた。僕が三年生の頃、彼は一年生だったという。個性的な卓球部の顧問の話や、部活の思い出を話している中「タクシーに乗ったときには運転手さんに話しかけて怖い話の体験談を聞くようにしているんですけど」と持ちかけてみた。
「実は怪談を話したり書いたりする仕事をしているんですけど、会社の先輩や友達で何か変わった体験をしたことがあるって人、知ってたりします?」
「いやーさすがに聞かないですね。あ、でも自分の体験なら少々。最近はあんまりわからないですけど、結構見えてたことがありまして」
仮に今川さんとする。今川さんが中学生の頃に、自宅の自室で経験した話だという。
中学校の近くのアパートに住んでいた今川さん。
「家には三人いまして。あ、幽霊が。お風呂場に男性が二人と、俺の部屋のクローゼットの中に女の人が一人。貞子みたいに髪の毛が長く真ん中わけ。白い服を着ていました」
お風呂場に居る二人の男性は、鏡越しに今川さんのことをじっと睨みつけるかのように見てきた。その目線は、何かを恨んでいるように思えたそうだ。
「クローゼットって、なんでそんなところにいるんだろうって想ってまして。見ないようにはしてたんですけど、勉強が終わって部屋から出る時に目線に入ってきたりするので怖かったですね」
ただ、部屋に存在する。
怖さは感じていたものの、害があるわけではなかったそうだ。
高校を卒業し、自動販売機に商品を補充する仕事に就いた今川さん。
担当地域に行き、いつものように補充作業を行なっていたある日のこと。
道路を挟んだ向かい側から、作業をしている背中に視線を感じた。
気になり振り返ってみると、そこには、ポストが見える。
ポストの脇、全身陰だけの男性が立っていた。
体格的にかろうじて男性だとわかるその陰は、何をするわけでもなく佇む。
この陰は、翌週もそのまた翌週も同じ場所にいた。
























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