「和歌山県の集落に実家があるという知り合いから聞かせて頂いた体験談です」
そう連絡をくださったのは、これまでにも何度かお話を提供してくださっている大輔さん。たくさんの怪談を皆様にお届けできるのが、大変にありがたい。
和歌山県に住んでいた秋山さん。秋山さんのお父様は、秋山さんが小学生の頃に病気が原因で亡くなってしまった。怒られた記憶もほとんどなく、物静かで優しいお父様だったという。
お父様が亡くなってひと月経ったある夜のこと。秋山さんは目を覚ましお手洗いへ向かった。お手洗いは母屋にはなく外の離れにあるため、懐中電灯を持ちサンダルを履いて表に出る。
お手洗いに近づいて行くと、扉の前に誰か立っていることに気がついた。懐中電灯を向けると、そこには亡くなったお父様が立っていたのだ。無表情でどこに視点が合っているのかわからない。
「‥お父ちゃん?」
声をかけてみるも返事はない。
母屋に急いで戻り、母親に「お父ちゃんを見た」と伝えた。「何寝ぼけてんのよ、一緒に行くから」と、夜中にひとりでお手洗いへ行くのが怖いので、このようなことを言ってきたのだろうと思ったのか。
お手洗いの前へ向かうと、父親は先ほどと変わらない姿勢で立っていた。秋山さんだけではなく、母親もその姿を見ている。
「アンタ!何そんなところでつっ立ってんの!」
父に向かい大きな声で叱る母。
すると、霧が晴れていくかのようにすぅーっと姿が消えていったのだ。お母様が気が強く、尻に敷かれていたというお父様。亡くなってからも力関係は変わらないのだろうか。
その日を境に毎晩のように姿を現すようになった。その度に叱られるお父様。なぜ、お手洗いの前に現れるようになったのかはわからない。
現在、秋山さんは神奈川県に住んでいる。度々、実家にいるお母様に電話をかけるのだが、いまだにお父様はお手洗いの前に立っているのだという。






















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