名古屋市中村区の外れ、古い住宅街の一角に、ひっそりと取り壊し予定の家があった。
築七十年を超える木造家屋で、近所では「入ると戻れない家」として知られていたが、行政の立ち入り調査でも特に異常は見つからず、ただの老朽化した空き家として扱われていた。
六月の湿気がまとわりつく午後、大学生の **佐伯悠斗(さえき ゆうと)** は、友人の肝試しに付き合わされる形でその家の前に立っていた。
「おい悠斗、ビビってんのかよ。入るだけだって」
茶髪の友人・亮が笑いながら背中を叩く。
悠斗は苦笑しつつも、胸の奥にざらつくような不安を覚えていた。
家の前には、風もないのに揺れる黒い紙片が落ちていた。
拾い上げると、それは **封がされていない黒い封筒** だった。
表面には、墨で書かれたような文字が滲んでいる。
> **「開ケバ、呪ワレル」**
亮が覗き込み、鼻で笑った。
「なんだよこれ、誰かの悪ふざけだろ。開けてみろよ」
悠斗は嫌な予感を覚えながらも、封筒を指でつまんで開いた。
中には、一枚の古びた写真。
写っているのは――
**この家の玄関の前に立つ、悠斗自身の後ろ姿。**
「……は?」
亮が顔をしかめる。
「お前、今撮られたのか? いや、でもこれ……服装も今日のじゃねえし」
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