幼稚園の年中から年長にかけて、私はムラツバキ君という男の子とよく遊んでいました。
くるくるとしたくせ毛に、少し離れたたれ目が特徴的な子でした。
私も彼も大勢で遊ぶのがあまり得意ではなかったので、教室の隅で絵本を読んだり、積み木を重ねたりしていました。
時代もあったのでしょう。一度だけ、一人で歩いて少し離れた彼の家まで遊びに行った記憶があります。
その時、彼のお母さんが手作りしたケーキをごちそうしてくれました。
広いリビングで向かい合って食べている間、ムラツバキ君のお母さんは終始にこにこしていて、彼の髪を撫でたり、食べこぼしをそっと口へ運んだりしていました。幼い私はそれを見て、
「いいなあ。うちのお母さんとはちょっと違うなあ」
などと思った記憶があります。
学区が違ったのか、小学校へ上がってから彼と会うことはなくなりました。そして当たり前のように、その存在も忘れていったのです。
けれど、大人になってから彼を思い出すたび、ひとつだけ妙なことがありました。
最初のうちは、お互い幼稚園の制服かスモックを着ているのです。
ところが記憶を辿っていくうちに、いつの間にかムラツバキ君だけが黒いTシャツに黒いズボン姿になっているのです。
大人になってみると、幼い子どもに全身黒の服を着せるのは少し珍しい気もします。
ですが彼の家のモダンな内装などを思い出すと、そういう趣味の家庭だったのだろうと思っていました。
この話を誰かにした時、
「それ、イマジナリーフレンドじゃないの?」
と笑われたことがあります。
私も一緒になって笑いましたが、なぜか少し気になりました。
そこで実家へ帰った際、幼稚園時代のアルバムを確認してみたのです。
すると、ムラツバキ君は名前入りでしっかり写っていました。
私はほっとすると同時に、ほんの少しでも疑った自分がおかしくなりました。
幼稚園から社会人になるまで、私はその町に住んでいました。
その後、少し離れた町へ引っ越し、結婚しました。
さらに何年か経ったある日、きっかけは忘れてしまいましたが、生まれ育った町を夫に案内したことがありました。
久しぶりに訪れた町は驚くほど変わっていて、駐輪場しかなかった駅前には大きなマンションが建ち、よく通ったレンタルビデオ店はドラッグストアになっていて、本屋はコンビニになっていました。
しかし、昔から変わらないラーメン屋や学習塾も残っていました。
それらにいちいち驚いたり、思い出話を披露したりするたび、夫は笑いながら聞いていました。
そうして歩き回った夕方のことでした。
ファミレスでひと休みしながら、窓際の席で夫と向かい合って座っていました。






















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