事故に遭ったのは、中二の九月だった。
といっても大したことはなくて、自転車ごと転んだだけだ。頭をちょっと打って、数針縫った。
その日の記憶は、途中からすっぽり抜けている。
「すげぇ謝ってたらしいな」
クラスメイトに言われた。
いや、俺は何も覚えていない。
「何に?」と聞くと、曖昧に笑って、「いや、知らね」と言われた。
その頃から、同じ夢を見るようになった。
白い廊下。制服姿の俺。
自分が自分を見ている視点。
俺がただ立ち尽くし、泣きながら繰り返す。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
何に対して謝っているのか分からない。
でも、夢の中の俺は、喉が潰れるほど泣いて謝っている。
病院で医者に話すと、軽い記憶喪失だろうと言われた。
「ショック映像を再生しているだけで、すぐ消えるよ」
そう言われても、夢は止まらなかった。
夢の俺は、日ごとに傷だらけになっていく。
前髪の奥から血が垂れ、片腕を変な角度に曲げたまま泣いている。
ぼそぼそ言っていた口元が、ある日、はっきりと動いた。
「あの時、お前だったんだろ?」
目が覚めた。心臓が痛いほど脈打っていた。
俺は何に“ごめんなさい”と言っていた?
事故のことを、友達に詳しく聞いた。
俺は歩行者とぶつかったらしい。
その歩行者は転んで、少し怪我をした。
だが、俺の記憶には一切ない。
「相手のこと知ってる?」
「……女の子だったよ」
名前を聞こうとしたら、友達は途中でやめた。
「なんか……思い出せないんだよな」

























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