その日、帰宅して制服を脱いだら、ポケットから汚れたハンカチが出てきた。
血が乾いて、黒くなっている部分がある。
でも、このハンカチ……見覚えがない。
その夜の夢は、もっとはっきりしていた。
白い廊下の先に、誰かが倒れている。
制服のスカート。黒い髪。動かない。
夢の俺は、そのそばに跪いている。
手には、あのハンカチを握りしめて。
叫んでいる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
夢なのに、耳の奥が痛かった。
起きたあとも、頭のどこかで声が続いていた。
——ごめんなさい。
——ごめん。
——ごめんて。
——ほんとに……ごめんなさい。
翌日、学校の近くの横断歩道を歩いていたら、急にめまいがした。
足元が揺れて、地面が遠ざかる感覚。
目を閉じた、その瞬間。
耳の奥で、知らない女の泣き声がした。
「……ちゃんと言ってよ」
振り向くと、誰もいない。
道の真ん中で立ち止まっていた。
怖かった。
すべてを思い出さないといけないような、でも、思い出したら戻れないような……
部屋に帰り、ポケットのハンカチを握った。
きゅっと指に食い込むほど握って、目を閉じた。
白い廊下。
血の匂い。
倒れている女の子。
泣きじゃくる俺。
その口が、はっきり動く。
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