引っ越してきたばかりの古いアパート。壁は薄く、隣の部屋の生活音が筒抜けだった。最初は特に気にしていなかった。一人暮らしには寂しさもあったから、むしろ誰かの気配がするのは悪くなかった。
しかし、数日が経つにつれて、隣の部屋から聞こえてくる音が気になり始めた。昼間はほとんど物音ひとつしないのに、夜になると奇妙な音が聞こえるのだ。
最初は、何かをズルズルと引きずるような音だった。深夜の静けさの中、それは妙に生々しく響いた。まるで重い何かを床の上でゆっくりと移動させているようだった。
「まさか、夜中に模様替えでもしてるのかな?」
そう思ったけれど、その音は毎晩決まって聞こえてくる。しかも、時間が経つにつれて、その音に別の音が混じるようになった。
それは、かすれたような、うめき声のような音だった。最初は小さな音だったが、次第に大きくなり、時には苦悶するような叫び声に聞こえることもあった。
眠れない夜が続いた。気になって壁に耳を押し当ててみても、はっきりとは聞こえない。ただ、背筋がゾッとするような、不気味な気配だけが伝わってくる。
ある夜、堪えきれなくなった私は、思い切って隣の部屋のドアをノックしてみた。しかし、応答はなかった。何度かノックしたが、静寂が返ってくるだけだった。
ドアノブに手をかけ、ほんの少しだけ開けてみた。隙間から覗いた廊下は暗く、何も見えない。ただ、奥の方から微かに、あのズルズルという音とうめき声が聞こえた気がした。
恐怖に駆られ、すぐにドアを閉めた。心臓が激しく鼓動し、冷や汗が背中を伝った。
それからというもの、私は夜が来るのが恐ろしくなった。毎晩聞こえる異様な音。そこに住むのは一体何者なのか?
ある日、アパートの大家さんに隣の部屋の住人について尋ねてみた。すると、大家さんは困ったような顔をして言った。
「ああ、あのお部屋ね……実は、ずっと空き部屋なんですよ。もう半年以上、誰も住んでいないはずないんだけどな。」
大家さんの言葉に、私は全身の血の気が引くのを感じた。誰も住んでいないはずの部屋から、毎晩聞こえてくるあの音は一体何だったのか?
その夜から、隣の部屋から聞こえる音はさらに不気味さを増した。ズルズルという音、うめき声、そして時には、何かを叩きつけるような激しい音が響き渡るようになった。
私は恐怖で眠ることができず、耳栓をして布団の中で震えていた。
ある晩のことだった。深夜、いつものように隣の部屋から音が聞こえてきた。しかし、その日はいつもと違っていた。
ズルズルという音の後、壁をドンドンと叩くような音が聞こえ始めたのだ。最初は小さかったその音は、次第に激しさを増し、まるで壁の向こうから何かが助けを求めているようだった。
私は意を決して、再び隣の部屋のドアに向かった。ドアの前まで来ると、壁を叩く音はさらに激しくなり、ドアの向こうから低い唸り声が聞こえてきた。
恐怖で足がすくんだが、私はドアノブに手をかけた。冷たく、 金属的な感触が指に伝わる。
ゆっくりとドアを開けた。
廊下は相変わらず暗く、何も見えない。しかし、奥の方から、あのズルズルという音と、今まで聞いた中で最も大きく、そして絶望的なうめき声が聞こえてきた。
そして、その声は次第に近づいてくるように感じた。
私は息を呑み、暗闇の中を凝視した。すると、廊下の奥から、黒い影のようなものがゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。
それは、人間のような形をしていたが、どこか歪んでいて、不自然な動きをしていた。ズルズルと床を引きずるような音は、その影が動くたびに大きくなった。
恐怖で声も出ない。私はただ、その近づいてくる影を見つめることしかできなかった。
その影が、隣の部屋のドアの入り口に差し掛かったその時、私は全身の力を振り絞ってドアを閉め、鍵をかけた。
ドアの向こうで、激しい叩きつける音と、耳をつんざくような叫び声が響き渡った。壁が震え、ドアが軋む。まるで、何か恐ろしいものがこちらへ入ってこようとしているようだった。
私は部屋の隅で体を丸め、耳を塞ぎ、ただひたすらその音が止むのを待った。

























迫力すごすぎるやろ
怖いですね
隣の部屋のドアを開けることができて、更に鍵を閉められる????なんで?????
語り主;フィクションだからです!今度からちゃんと書きますね