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ヒトコワ

鬼笑いの語り部さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

自動音声の留守番電話
短編 2025/10/27 15:17 1,493view

それは、俺が一人暮らしを始めて、数ヶ月経った頃のことだった。
仕事から帰ってくると、部屋の電話が赤く点滅している。留守番電話のメッセージだ。
再生ボタンを押すと、自動音声が流れる。「本日18時13分、一件のメッセージをお預かりしました」と。
そして、そのメッセージが再生された。
「……ピー」
無音だった。ただ、かすかに、何かを擦るような、妙に湿った音が聞こえる気がする。
でも、気のせいかと思って、そのまま消した。
次の日、また仕事から帰ると、電話が点滅している。
再生すると、また同じ自動音声。「本日19時41分、一件のメッセージをお預かりしました」。
そして、またメッセージは無音。昨日と同じ、湿った擦れるような音が少しだけ聞こえる。
それから、それが毎晩のように続いた。
最初は不気味だったけど、すぐに慣れてしまった。
どうせ誰かのいたずらか、留守番電話の不具合だろうと思っていた。
ある晩、いつも通りメッセージを再生した。

「本日20時02分、一件のメッセージをお預かりしました」。
そして、いつも通りの無音。
だけど、その日のメッセージは、ほんの少しだけ違っていた。
無音の中に、ごく微かに、かすれた声が混じっているような気がしたのだ。
耳を澄ますと、その声は、何かを言っているようだった。
「……………タスケテ」
俺は全身の毛が逆立った。
次の日、思い切ってメッセージの履歴をすべて消去した。
もうこんな気持ち悪い思いをするのは嫌だった。
だが、その日の晩、電話が点滅している。
自動音声。「本日20時58分、一件のメッセージをお預かりしました」。
再生した。
いつもと同じ無音の中に、あの声が聞こえる。
だけど、今夜は、もっとはっきり聞こえた。

「……タスケテ……タスケテ……」
そして、メッセージが終わった後、自動音声が流れるはずのタイミングで、それは起きた。
「メッセージは再生されました。あなたの次のメッセージは、まだありません」
俺はぞっとして、電話機を壁に投げつけた。
電話機は壊れ、床に転がった。
その日を境に、留守番電話のメッセージはこなくなった。
それから数年後、俺は引っ越した。
新しい部屋には、電話機は置いていない。
しかし、時々、部屋にいると、ふと、聞こえてくることがある。
遠くから、何かを擦るような、湿った音。
そして、その後に続く、微かな声。
「……タスケテ……」
俺は耳を塞いで、その声が聞こえないふりをする。
だけど、俺は知っている。
俺の次のメッセージは、もう、いつ送られてきてもおかしくないということを。

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