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ヒトコワ

鬼笑いの語り部さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

🗝️ 誰も触れていないモノ
短編 2025/10/30 10:08 1,000view

私の住むアパートは古い。築40年で、壁は薄いし、ドアも建て付けが悪い。特に玄関の鍵は、ガチャリと回してから**「カチッ」**という小さな確認音が鳴るまで、一瞬の間がある。私は鍵をかけるとき、必ずその**「カチッ」**という音を聞き届けてから部屋に入ることにしていた。鍵がかかったという、自分だけの確認作業だ。ある日の深夜、仕事から帰った私は、いつも通り鍵をかけた。ガチャリ。そして、一瞬の間。$text{カチッ}$今日もちゃんと鍵はかかった。安心して、ベッドに入り、すぐに眠りについた。翌朝、目が覚めると、私は妙な違和感を覚えた。玄関のドアの鍵が、開いているのだ。正確には、鍵はかかっていた。しかし、ドアノブの上にある**補助錠(内鍵)**が、いつもと違う位置にあった。私は補助錠をかけるとき、必ずノブと垂直になるように、真横に向けてかける。しかし、今、補助錠は斜め45度に傾いていた。「え、かけ忘れたのか?でも、昨夜は確実にかけたはずだ…」私は不安になり、その夜からは、補助錠をかけた後、その向きをスマホで撮影して記録に残すようにした。そして、その夜。ガチャリ。カチッ。私は内鍵を真横にかけて、写真を撮り、すぐにベッドに入った。朝、確認のためにスマホの記録を見てから、玄関に向かった。昨夜の写真と、今の補助錠の向きを見比べる。写真では、補助錠は完璧な真横だ。しかし、目の前の補助錠は、昨日と同じように斜め45度に傾いている。「またか…」私は、何かの振動で動いたのだろう、と自分に言い聞かせ、今度は補助錠を**真上(垂直)**に向けてかけてみた。これなら、勝手に動くことはないだろう。写真を撮り、眠った。次の日の朝。私はドキドキしながら玄関へ向かった。補助錠は、真横に傾いていた。そして、その日の夜、仕事から帰ると、私はある恐ろしい事実に気づいた。鍵をかけるたびに鳴るはずの、あの小さな確認音。$text{カチッ}$いつもは鍵を回した後に鳴るその音が、今日は、鍵を回す前に鳴ったのだ。私は恐怖で立ち尽くした。鍵穴に鍵を差し込むより先に、小さな、確実な音が響いた。$text{カチッ}$「…鍵、もうかかっているの?」恐る恐る鍵穴に鍵を差し込み、回す。鍵は、何の抵抗もなく、空転した。私はすぐにドアを開け、一歩外に出た。そして、ドアを閉め、外側から補助錠のつまみを触った。補助錠は、昨夜私が内側からかけた**真上(垂直)**のまま動かない。しかし、私のスマホの写真フォルダには、補助錠が真横にかけられている、昨夜の記録が残っていた。誰も触れていないはずの鍵が、毎日、私の記憶と違う向きに動いている。私はすぐに引っ越すことを決意し、荷物をまとめているとき、ベッドの下から、何かの書きつけを見つけた。それは、まるで私が書いたような、乱れた筆跡だった。$text{「カチッが鳴るまで、待て。」}$その書きつけの真下には、昨日買ったばかりの新しい補助錠が、斜め45度に傾いた状態で、綺麗に並べて置かれていた。

この話はフィクションです

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