町はずれに、一軒の古びた家があった。誰も住んでおらず、長年放置されたその家には、奇妙な噂がつきまとっていた。
「夜中に窓から灯りが漏れることがある」
「中を覗くと、誰もいないはずなのに影が動く」
「入った者は、二度と戻らない」
ある夜、大学生の翔太と友人の健は、肝試しをすることになった。懐中電灯を片手に、彼らは家の中へと足を踏み入れる。
玄関の扉は驚くほど軽く開いた。埃っぽい空気が鼻を突く。リビングには古びたソファと壊れかけのテーブルがあり、奥には階段が見えた。
「……誰もいないよな?」
「当たり前だろ。ただの噂話さ。」
そう言いながらも、二人の心臓は早鐘のように鳴っていた。
すると、不意に二階から足音が聞こえた。
「おい、誰かいるのか?」翔太が声を震わせながら言う。
答えはない。しかし、足音は確かに階段を下りてきている。
ガタガタガタッ——
電球の切れた廊下の奥、真っ暗な闇の中で、何かが動いている。
「逃げよう!」健が叫び、二人は一目散に玄関へと走った。だが、扉が開かない。
背後で何かが囁く。
「……返して……」
ゾクリとする声。翔太が振り向くと、そこにはぼんやりと光る女の姿があった。白い服を着た長い髪の女が、涙を流しながらこちらを見つめている。
「……私の灯りを……返して……」
次の瞬間、電球が一斉に点灯し、部屋中が眩い光に包まれた。翔太と健は、悲鳴を上げながら意識を失った——。
翌朝、二人は家の外で倒れているところを発見された。無事だったが、それ以来、彼らの影は消えていた。
「呪われた家の灯りを見た者は、光の中に溶けてしまう」
その噂は、さらに広まっていったという——。
























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