閉店後のコンカフェは、まるで別世界だった。お客さまがいなくなり、灯りを少し落とした店内には、グラスを拭く音と、時計の針の音だけが静かに響いていた。
彼女の名前はゆいにゃ。若くしてコンカフェの店長を務めている。『ゆいにゃ』は源氏名である。
「ん〜、今日もがんばったぁ…」ゆいにゃはカウンターにグラスを並べながら、ふっと一息ついた。
そのときだった。
チリン…
お店の入口にある、お出迎え用のチャイムが鳴った。でも、もう扉には内鍵がかかっているし、何より時間は深夜0時をまわっている。
「…あれ? もしかして鍵、ちゃんとかけ忘れた?」首をかしげながら入口に向かうと、ドアは…しっかりと閉じられ、鍵もきちんと回っていた。
「……」
一瞬、背筋に冷たいものが走ったが、気のせいだと思い直し、作業に戻る。
チリン… チリン… チリン…
チャイムが何度も鳴り響く。鳴るたびに心臓がバクバクと跳ね、カウンターの隅に置いたスマホを手に取る。
「だ、誰もいないはずなのに…」
スマホのカメラを立ち上げ、入り口を映す。画面には誰もいない。
でも…ふと、画面の端に何かが映った気がした。よく見ると、カウンター席に——
制服姿の、もう一人の自分が座っていた。
しかも、その”ゆいにゃ”は、こちらを見てニヤァ…と笑っている。
「うそ…なにこれ…」
慌ててスマホを下ろすと、当然そこには誰もいない。だけど画面には、なおも”彼女”が微笑んだまま映っていた。
「いっしょにお迎え、しよ?」
耳元で、まるで自分の声そっくりな囁きが聞こえた瞬間、電気が一斉に消えた——。

























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