ズレてる
投稿者:たち (35)
以前勤めていた会社に佐藤さんという少し変わった方がいた。
私がその会社に勤めて1年後くらいに中途採用された方で年齢は当時40歳くらいの男性。
仕事も真面目で大人しくいつもニコニコしている方だった。
しかし、会社内では佐藤さんのことを避けていたり、事あるごとに佐藤さんを叱る方も一定数いた。
それには訳があり、佐藤さんがたまにズレてるのが原因だった。
朝礼や集合時間を守れなかったり、話をしていても笑うタイミングが他の人と合わなかったり、挨拶の練習をする時に1人だけ遅れて喋っていたりと何かとズレていた。
私はいつものことなので特に気にもしなかったがズレてる行動が周りの人達をイライラさせていた。
失礼な言い方だが、障害があるわけでもない。
佐藤さんの時間と私達の時間がズレてるといえばわかりやすいかもしれない。私はそういう風に捉えていた。
ある日の夜勤でのこと。
休憩時間に休憩所に行き、夜空を眺めながらタバコを吸っていると佐藤さんがやってきた。
「あっ、佐藤さんも夜勤だったんですね。お疲れ様です。」
言葉をかけてから5秒後くらいに、
「お疲れ様です。今週夜勤なんですよ。」と返事をしてきてくれた。
「そうなんですね。じゃあ、俺と同じだ。」
「はい。早く帰って寝たいです。」と簡単な会話をし、
「じゃあ、俺、そろそろ戻らないと。失礼します。」といい休憩所から出た。
何気なく佐藤さんを見ると、私がいないのに何か1人で喋っていた。おそらく私が言って言葉に返事をしていたのだろう。それを見た瞬間、少し怖かった。
別の日の朝。
月に一度ある、全体朝礼の日。
夜勤終わりに集合場所の広場に向かって急いでいた。
ギリギリ間に合い、列の最後尾に立っていると別の部署の列に佐藤さんの姿が見えた。
前の方では社長や部長達が前月の報告をしている。それを聞きながら、「眠いなー、早く帰りたい。」と思いながらボーッとしてると佐藤さんが目についた。その瞬間、私は背筋が凍った。
全員が前を向いて話を聞いてる中、佐藤さんだけはずっと横を向いていた。
ただのよそ見してるだけというレベルではない。体は正面を向き、顔だけ横を向いていた。
横を向き、遠くを眺めているように見えた。周りの人達は気味悪がり佐藤さんから少し離れたり、睨んだりしていた。
佐藤さんが見てる世界、時間と私達が見てる世界、時間が明らかにズレてるとその時確信した。もちろん、人それぞれ見えてるものは違うがその見えてるものがズレてるのかもしれない。
例えば、横一列に10人並んで真正面を見てたとする。右斜め前から音がしたら音のする方を全員見ると思うが、佐藤さんの中ではその音が左斜め前から聞こえてそちらを向いてるような感じだと思った。
私達からすると、少しズレてる空間に佐藤さんがいるのかもしれない。
そう考えてらと少し怖い感じがして眠気が飛んだ。
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