ズレてる

またある日。
上司から佐藤さんに渡してほしいと頼まれたものがあったので夜勤の時に渡そうと思っていた。
休憩時間、休憩していると佐藤さんが来たので、「佐藤さん、お疲れ様です！佐藤さんに渡してほしいって預かってるものあるんですよ。」
少し間があり、
「お疲れ様です。そんなんですね。ありがとうございます。」
「あとで持っていきますね。」
そう言って休憩所を後にしようとした瞬間、
「あっ、仕事終わりに渡しますよ。」
と佐藤さんのズレてる空間に間髪入れずに言葉を話してしまった。

おそらく、「あとで持っていきますね。」の返事をしてから、「あっ、仕事終わりに渡しますよ。」に対する返事をしてくると私は思っていたが違かった。
「あっ、仕事終わりに渡しますよ。」
「わかりました。では、仕事終わりに。」
会話がすんなり成立した。
予想外の返事に戸惑いながらその場を後にした。

そして、ある日。私は佐藤さんに思い切って聞いてみることにした。
「佐藤さん。佐藤さんって俺達と少しズレてますよね？時間とか見るポイントとか。気づいてます？」
佐藤さんはいつものように優しい顔で答えてくれた。
「ええ。気づいてます。ここだけの話、わざとそういう風にしています。内緒ですよ。ここだけの話です。」

「えっ？わざと？今までずっとですか？なんでそんなことを…」
「そうですね。周りからは変だと思われてるのも感じています。」
私は不思議そうに話を聞いていた。
「実はですね。ズレをわざと起こしているとズレてる世界にいけるようになるらしいんですよ。わかります？私が見てる世界、時間、空間が他の一般的な人達の見てる世界、時間、空間と別になるんですよ。そっちの世界に行きたいんです！」
いつも見る佐藤さんとは別人のような気がした。
それから徐々に私も佐藤さんと距離をとるようになっていった。
そして、佐藤さんのズレは日に日に大きくなってるような気がした。
佐藤さんが思い描いている異空間に行く日が近いのかもしれない。