バレンタイン

2月14日。毎年この日は、男性が心のどこかで期待を抱きながら過ごす日だと思う。私もその中の1人。ワクワク、ドキドキしながら過ごしていた。しかし、今の年齢にもなればワクワク、ドキドキの気持ちを味わうことはない。

私は今まで人生の転換期の年のバレンタインで毎回奇妙な体験をしてきている。

事の始まりは、小学生6年生。4月から中学生になる直前のバレンタイン。
私は同級生の女の子から義理チョコをもらい帰宅しようと下駄箱に向かった。すると、1人の見知らぬ女の子が声をかけてきた。
「これ、どうぞ。」と小さな箱を差し出してきた。
「えっ？あっ、ありがとう。」
私は戸惑いながらも小さな箱を受け取った。
その子は、私に箱を渡すとタタタッと走り去っていった。
「誰だろう？6年生じゃないな…5年生か4年生かな。」
年下の女の子からチョコを貰ったのは初めてでその当時は嬉しかった。
結局、どの年代の子なのかわからず卒業してしまい中学生に進学した。

中学3年生のバレンタイン。
本命チョコや義理チョコをもらい、浮かれながら帰宅していた。すると、下校途中に
「あのー、これどうぞ！」とチョコを貰った。
突然のことで驚いた私は、「あ、ありがとう…」
と小さな声で伝えると、その子はニコッと笑顔を見せて立ち去った。
「6年生の時にもあったな。年下の女の子にもらった事。同じ子かな？」と思った。

今回もどこの子かわからないまま卒業し、高校へ進学することになった。

高校生活では初めての彼女もできて、充実した学校生活を送っていた。
そして、進学することが決まり学校に登校する日も少なくなってきた高校3年生のバレンタイン。私は友人達と遊び終えると、自転車で帰宅していた。すると前から1人の女子高生が歩いてきたので私はその子を避けるために車道の端を走っていた。突然、その子が声をかけてきたので少し通り過ぎたところで立ち止まり後ろを振り返った。
「これ、どうぞ！」まっすぐ、私の顔を見てチョコを差し出してきた。
私は小学生、中学生時代にも同じようなことがあったことを思い出し、
「ありがとう。もしかして、小学生、中学生の時にもチョコくれた子？」と思い切って聞いてみた。その子はニコッと笑顔を見せて立ち去ろうとした。
「ちょっと待って！名前は？」と聞いたがこちらをチラッと見て走り去って行った。
小、中、高と卒業直前のバレンタインの時にのみ、見知らぬ女の子からチョコを貰ってきたことを不思議に思ったがただの偶然かなとしか考えなかった。

その後、専門学生になり関東で新生活を始めた私は勉強やバイトと忙しく、バタバタした生活を送っていた。
それなりに楽しい時間を過ごし、無事に就職先も決まり、あとは卒業をするだけとなった直前のバレンタイン。
当時付き合っていた彼女からチョコを貰い、帰宅した私は、自分の部屋の前で待つ1人の女性を見て立ち止まった。
「誰だろう？俺に用かな？」と思いながらゆっくり近づき、「あのー、何か用ですか？」と女性に聞いた。すると、
「あのー、これ、どうぞ！」とチョコが入っているであろう箱を差し出してきた。
私は過去のことを一気に思い出し、驚いて動けなくなっていた。
「あのー？」と言う声で我にかえり、
「あ、ありがとう。お名前は？これで4回目だよね？チョコをくれるの。」
女性は初めてこちらの問いに答えてきた。　

「覚えてくれてたんですね。嬉しい。」
そう言うと女性は軽く微笑み立ち去って行った。私は急いで追いかけたが女性の姿は消えていた。
私は少しの間呆然とし、部屋に戻った。
部屋に戻り、頂いたチョコを見ながら今までのことを思い出してみた。
小学生、中学生、高校生、そして今日。
4月から新しい生活が始まるタイミングで来てくれることしかわからない。
私は小、中の後輩で今でもたまに連絡を取り合っているSに聞いてみることにした。
「久しぶり！元気にしてた？どうだ？最近？」と何気ない会話をし、本題を切り出してみた。
「Sの同級生でさ、大人しそうな感じの子で身長は少し大きくて髪は長めの子っていた？」
と聞いた。Sはしばらく考えて、
「大人しそうな感じの子は何人かいますが、身長が少し大きいとなると多分あの子かな…」と思い当たる子がいるようだったので、
「名前わかる？」と聞き、
「確か、オガワ　ユリです。中学の時は休み時間とかにノートにいつも何か書いてました。たまたま見かけたことがあったんですが、ノートぎっしりに何か文章を書いていましたよ。それを見て少し不気味になってから関わることを避けてきましたね。オガワがどうかしました？」
「オガワ　ユリか。いや、多分その子だと思うんだけど…」
私は後輩に今までの出来事を説明し、年下の女の子だと思ったからSに相談してみたことを伝えた。
「そうだったんですね。ちょっと不気味ですね。確か、高校は先輩と同じ高校だったと思います。その先のことはわかりませんが…」
私は何かオガワ　ユリのことでわかったことがあったら教えてもらうことを頼んで電話を切った。