悲しい灯(ともしび)
投稿者:kana (210)
昼頃から降り始めた小雨が、夕方にはやや強い雨に変わっていた。
遠くで雷鳴が轟いている。
「母さん、ちょっと早いけど、ボク心配だからこれから陽菜(ひな)を迎えに行くよ」
「あなた、行ってらっしゃい。濡れてるかもしれないから、タオル持って行ってください」
「あぁ、ありがとう。じゃ行ってくるよ」
K氏の家からクルマが出る。塾で遅くなる娘さんを、いつもこうして迎えに行くのだ。
・・・・・・
塾の周りには傘を差して待っている親御さんたちの姿が見える。
最近はK氏のようにクルマで迎えに来る人も増えた。
そのためか、誘導灯を持った警備員が交通整理を行っている。
3年前から塾側の配慮で実施されている。
やがて塾の扉が開き、子供たちがわらわらと出てきた。
すぐにクルマに向かう子も入れば、傘を持つ母親のところへ駆け寄る子もいる。
もちろん友達同士や、一人で帰る子たちもいる。
他人の子ながら、K氏は心の中で(気を付けて帰るんだよ)と声をかける。
一番最後になってようやく娘が出てきた。
K氏は助手席の窓を開け、声をかける。
「陽菜、こっちだよ。遅かったね」
中学校指定の紺色のPコートが、少しだけ雨をはじいて陽菜を守っている。
助手席に乗り込み、シートベルトをする娘。少し濡れて湿気を吸った陽菜の髪は、
いつもよりクシャクシャのナチュラルボブになっていた。
暗闇で、看板や信号機、それに建物の窓から射す光だけがこうこうと輝いて、
それがウインドウに落ちた雨のフィルター越しに幻想的な光を放っている。
陽菜は少し寂しそうな表情をしているものの、大きな瞳はどこか遠くを見ているようだ。
髪の先から、一滴だけ雨のしずくが頬に落ちる。
そのせいでまるで一瞬、陽菜が泣いているように見えた。
妻から渡されたタオルで陽菜の髪を拭いてあげる。
「今夜は陽菜の好きなハンバーグだって。母さんお手製のコーンスープもあるよ」
「・・・ありがと・・・」
「・・・陽菜、またあの事考えてるのかい?」
切なく泣かせる…
↑kamaです。さっそくお読みいただき感謝です。
一部ですが、より良い表現に書き換えました。よろしくお願いします。
切なくて言葉が出てこないです。
怖い話ではなくて切ない話ですね。事故で家族を失った家は本当にそうなります。