本当に幽霊？

「あれ、あそこに居る人、なんか変な動きをしてる」

と、友人が言い出しました。

その人は、少し離れた所を歩いていました。すると突然立ち止まり、何もない空間をじっと見て動かなくなりました。そしてまた歩き始めると、今度は同じ場所でやはり立ち止まるのです。

「何か見えるの？」

と私が訊くと、彼は答えます。

「いや、見えないけど……何だろ？ なんとなくそんな気がするんだよね」

私は目を凝らしてみましたが、彼の言うような奇妙なものは見えません。

「うーん……」

首を傾げながら歩いているうちに、私たちは問題の人に近づいていきました。

やがて彼が、私の肩を叩きました。

「ほら、あの人だよ」

見ると確かに、先ほどから私たちをつけている人が居ました。しかし私にはただの変な動きをする普通のおじさんにしか見えませんでしたし、それは彼も同じでした。

ところが友人の目は誤魔化せません。彼は霊感が強いのです。

「間違いないよ！ この人絶対おかしいって！」

そう言われてもまだ半信半疑だった私は、彼に頼みました。

「ちょっと、話しかけてみてくれない？」

友人はコクリとうなずくと、おもむろにその人の方へ歩いて行きました。そしてその目の前に立ち、

「こんにちはっ！」

と大声で挨拶しました。

その瞬間、その幽霊らしい人はビクッとして飛び上がりました。まるで本当に幽霊を見たかのように驚いているようでした。それからキョロキョロ辺りを見回していましたが、私と友人以外誰もいないことを確認するとホッとしたように胸を撫で下ろした感じでした。

その後、その友人曰く幽霊らしい人は逃げるようにしてその場を離れて行ったので、それ以上は何も分かりませんでした。

「どうだった？」

と私が尋ねると、友人は苦笑いしながらこう言いました。

「ああいうのとは関わらない方がいいと思うよ」

それ以来、その人の姿を見ることも無くなりました。私には本当に幽霊だったかはわかりませんが友人はさすがに生身の人間を幽霊扱いするような失礼な奴ではないはずなのでとりあえず信じています。