小さい鈴
投稿者:偽美 (28)
あれは、僕が中学一年生の夏休みの事です……。
その日も僕はいつものように朝から一人でゲームをしていました。
しかし昼頃になると流石に飽きてきてしまったので、気分転換も兼ねて散歩に出かける事にしました。
当時住んでいた街は、今住んでいる場所より田舎だったので家の周りを歩くだけでも十分に楽しかったんです。
それに、この辺りには小さな神社がありましたから、暇潰しに行く事にしたんです。
「……やっぱり誰もいないな」
人気の無い境内を見て思わずそう呟きました。
まぁ、当然ですよね?こんな寂れた神社に来る人なんて殆どいませんよ。
そんな事を考えながら賽銭箱の前を通り過ぎようとした時です。
「……ん?」
不意にあるものが目に入りました。
それは賽銭箱の上にちょこんと置かれた小さめの鈴だったのです。何だかそれがとても気になった僕は、その鈴を手に取り振ってみました。
チリンチリン……という音が鳴り響きます。
そして次の瞬間、僕は背筋が凍り付くような感覚に襲われました。
何故なら……
『ねぇ……私にも鳴らしてみて』
突然、背後から声をかけられたからです! 慌てて振り返るとそこには一人の少女がいました。
歳は多分中学生くらいでしょう。長い黒髪に白いワンピースを着た可愛らしい女の子でしたが、何故か顔だけが見えないんです。
少女は僕に向かって手を伸ばしてきました。
僕は怖くなって逃げ出そうとしましたが足が動かなかったんです。まるで地面に根を張ってしまったかのようにビクともしないんですよ。
その間も少女の手はジワジワと迫ってきています。
もうダメだと思い目を閉じたその時、今度は聞き覚えのある声が聞こえてきたんです。
「お兄ちゃん!」
それは妹の声でした。
いつの間にか僕の足元には妹がいたんです。
どうやら心配になって追いかけて来たみたいですね。そのとき急に足も動くようになったため、妹の手を思いきり引っ張って二人で必死に逃げました。どれくらい走ったか覚えていないのですが気が付いた時には自宅に帰ってこれていました。そしてあの鈴はどこかへ消えていました。あの鈴が原因であんな体験をしたのでしょうか?
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