父の部下だった人
投稿者:偽美 (28)
その日、私は友人と二人でドライブに行きました。私も友人もその時は免許を持っていましたし、二人とも車の運転は好きでしたので、休日はよく出かけることがありました。
カーナビの案内で目的地の駐車場に着き、車から降りて伸びをしていると、私の携帯電話が鳴り始めました。発信者は別の友人の一人でした。何か急用でもあったのかと思い電話に出ると、
「今すぐ来てくれ」
と言われました。
どうやら友人の乗っている車が故障してしまったらしく、その修理のために人手がいるということでした。私は
「いいよ」
と答えてから、友人の名前を呼びます。すると友人は電話の向こうで
「助かる!」
と言って、すぐに電話を切りました。
そして故障しているという車に辿り着くと、そこにはその友人の他にもう一人、知らない男性が立っていました。男性はこちらを見るなり
「あっ……」
と声を漏らしました。
私とその男性の間に微妙な空気が流れています。見ず知らずの男性を前にして緊張する私とは違い、彼はどこかバツが悪そうにしていました。しかしそれも束の間、彼の方から話しかけてきました。
「君……もしかして俺のこと覚えてる?」
私は少し戸惑いながらも首を横に振りました。確かに私はこの男性に見覚えがあるような気がしますが、思い出せません。そんなことを思っていると、彼はこう言いました。
「やっぱり覚えていないか……。じゃあ、これなら分かるかな? 俺は昔、君のお父さんの部下だったんだよ」
「えっ!?」
私には信じられませんでした。だってあの人はもう死んでしまったはずなのですから。でも男性の真剣な表情を見ると、嘘だとはとても思えなくて……。
結局、詳しい話は聞けないままでしたが、その後私は無事に家に帰ることができました。後日、友人に聞いてみたのですが、やはりあの男性は私の父の部下だったという話でした。
それを聞いた時、私は思ったんです。もしも父の部下である彼が今も生きていたとしたら、一体何歳くらいになっているんだろうって。
だからあれは本当にあったことなのか、それとも夢の出来事だったのか……。今でも分かりません。ただ一つ言えることは、もしまた彼に会えたとしても、絶対に驚かないようにしようと思うことです。
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