山の中の首無し地蔵
投稿者:with (43)
小学生の時、よく遊んでいたAとB。
俺たち三人はAの家から近い山に入って探検ごっこにはまっていた時期があった。
とは言っても所詮は子供の知能と視野だから、ただ藪を突っ切って険しい斜面を登り、地上では見かけない植物や木に巻き付いてる蔦を見つけては大いに喜ぶような、浅い冒険だ。
夏が終わり秋口の少し肌寒く感じる頃だったか、山をしばらく登った後に緩やかな尾根を過ぎてまた下ると幾つもの岩が転がった土砂の跡地らしき窪みを見つけた。
「あれなんじゃろか」
Aが声高々にあげたと同時に斜面を滑るように下り、枝を腕で払いのけ葉っぱで隠れていた地蔵が姿を現す。
「地蔵じゃん」
「首ないよ」
頭部のない地蔵の首辺りを指でなぞるAの後に続いて、Bが首がないことに言及した。
地蔵は何十年か放置されていたようで随分と風化していて、肌には乾いた泥が張り付き、本体のあちらこちらも欠けていてみすぼらしい。
俺も斜面を下って合流し、地蔵の頭部を探すことになった。
「こんなとこにあるっちゅうことは、無縁仏じゃろか?」
「むえんぼとけ?」
Bが無縁仏という聞きなれないワードを口走り、Aが矢継ぎ早に聞き返す。
当時の俺も無縁仏は初耳だったが、Bから葬式や供養してくれる人がいない孤立無援な死人の墓だと聞かされて、この時のBの説明口調が鮮明に思い出せるほどに覚えた。
「無縁仏にはかかわらんほうがええって、婆ちゃんが言いよった」
Bの知識は祖母の教えだった。
まあ、俺達はさほど恐怖は感じてなかったので、成り行きで頭部だけは見つけてあげようと考えた。
別に危害を与える訳じゃない、寧ろ親切心だから感謝されるくらいでは、と安直な発想だったと思う。
「見つからんわー」
10分くらいの捜索も気分屋のAの声で終了となった。
結局頭部は見つかることなく日が暮れるばかりなので諦めることにした。
それじゃあ可哀想だと思い、俺達は地蔵の周辺の雑草や枝葉をちぎり、一応墓参りらしき体裁を保つ為両手を合わせて拝む。
「よし!この奥進んでみようや」
Aが颯爽と登り斜面指差したと思えば、先走るようにして駆け上がっていく。
俺とBも冒険の再開に意気揚々と声をあげてAの後を追いかけた。
しばらく登ると大木に囲まれた八畳くらいの空間に行き着き、上を見上げれば青々とした葉っぱで空は覆われている。
そして、その中央に大木の太い枝からブランコのように垂れ下がる一本の巨大なロープがある。
ロープの太さは子供の俺たちの太ももほどもあり、地面すれすれの位置で固結びしてあった。
「なんじゃこれ?」
「これで上登るんかな?」
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。