そこまで話すと、裕子さんは一息ついた
「長内先生はクセが強いでしょ。でもね、この話にはもう1人、同じくらいクセの強い人物が、登場するのよ」
「え……長内先生と張り合えるほど、クセの強い人がいるんですか?」
「ふふ、そうよ、それも女子高生よ!
えーと、長内先生が赴任してから3ヶ月くらい経った時にね、その女子高生、由美子(ゆみこ)ちゃんという子が病院にきたの。
長内先生の診察日は空(す)いているから、その姿は目立っていたわ。
また、彼女は小さな町ではちょっと有名でね、誰もが知っている女の子なのよ。
何故かというと、父親が元アイドル歌手で、その一人娘だからよ。
彼は60年代に大活躍したけど、引退して一般人になってたの。
親子3人で、由美子ちゃんが高校に上がるタイミングで、引っ越して来たのよ。
その後すぐに私もタレント辞めて帰ったから、元がつくけど有名人が2人も揃ったって、当時は盛り上がったわ。
由美子ちゃんの両親はレストランを開いてね、父親が元アイドルというだけでなく、料理も上手だし愛想も良くて繁盛したのよ。
……でもね、開業して2年後、高校3年生になった由美子ちゃんは、不登校になってね。
学校では何の問題もなかったのに、どうしたんだろうって噂になったの。
まあ、私は理由を知ってるんだけど、実はお父さん、不倫してたのよ。
でも詰めが甘くて、バレちゃったの。
不倫相手とはすぐ別れたんだけど、夫婦喧嘩が絶えなくなってね。
由美子ちゃんの前でも喧嘩するようになって、それで全てのやる気を無くして、彼女は不登校になっちゃったの。
それでね、そんな由美子ちゃんが、誰もが避ける長内先生の診察日に来たのよ。
受け付けを素通りして、勝手に診察室に入って長内先生に会いたかったと抱きついたもんだから、付き添いの看護師はビックリよ!
長内先生も、嬉しそうにニヤニヤしながら由美子ちゃんを抱きしめたの。
そのまま2人は愛を語り合ったんだけど、由美子ちゃん、何故か赤ちゃん言葉なのよ。
自分のことも『由美子』って名前で呼ぶし、わざと舌っ足らずに喋ってるの。
長内先生も、ネコナデ声で更に気持ち悪くなってて、まるで由美子ちゃんを幼女に見立ててママゴトをしているようだった。
唖然としながらも看護師は、診察でなければ出て行けと、まずは部屋から追い出したの。
それで何が何なのか聞き取りをしたら、2人は付き合ってて、もうじき結婚すると言い出した」
「す……凄い展開ですね。
なるほど、何というか、物凄くクセの強い女子高生ですね」
「由美子ちゃんはね、不登校前は大人しくて可愛らしい、普通の女の子だったのよ。
一人称も“私”で、言葉遣いも年相応だった。
でも不登校でネガティブになっている時に、どこかで長内先生と出会って、共依存の関係になったのね。
いくら若い女が好きだからって、女子高生と付き合うのは、当時は今ほど五月蝿くはなかったけど、歓迎されるものでもなかった。
その後も、2人はあちこちでおかしな振る舞いをしてたから、軽蔑と失笑の的になってたわ。
本人たちは気にしてなかったけどね。
由美子ちゃんの親は困っていたけど、娘に強く言えないのよ、自分たちの不倫や夫婦喧嘩が原因だからね。
それに、反対するとかえって燃え上がるかもしれないからと、凄く嫌だったと思うけど、ご両親は静観することにしたの。
でもある日、病気でもないのに由美子ちゃんが、親の承諾も無しに勝手に入院しちゃったのよ。
長内先生と2人して、能天気に“恋の病”になりましたってね、呆れるでしょ。
本物の病院で本物の医者が、“お医者さんごっこ”かよって。
もちろん通用する訳ないから、ご両親は病院に押しかけて、大騒ぎになったわ。
特にお母さんが怒ってて、私の所にもね、『どうにかしろ』と怒鳴り込んで来たのよ」






















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