(あれ?なんか、いつもより重くないか、これ……?)
もちろん、直接手で持つわけではないので、気のせいかもしれない。
小さなボクシングジムで、俺はサンドバッグを叩いていたが、微妙な感覚の違いがどうにも気になって仕方ない。
とうとう、手を止めて(グローブをはめていて、指を差すことができないので)、拳をサンドバッグに向けて、オーナーに声をかけた。
「オーナー。これ、中身を入れ替えたりしました?」
すると、明らかに、オーナーの顔色が変わった。
「な、なんで?何も変えてないよ。変なこと言わないでよ!」
声がうわずっている。すごく気になるが、触れない方がよさそうだと思って、そうっすか?とか返して、トレーニングを続けた。
後から来た先輩とサンドバッグ打ちを交代して、ちょっと休憩してたら、その先輩も、オーナーに同じことを尋ねた。オーナーも、同じような返事をしたが、先輩は引き下がらなかった。
「お前はどうよ?俺が来たとき、サンドバッグ叩いてたよな。なんか、いつもよりちょっとだけ重いというか、感覚が違うと思わなかったか?」
問われた俺は、確かにちょっと変な気がして、先輩と同じことをオーナーに言ったんですよね、と返した。
そうだろう、おかしいよなコレ、と言って、先輩はさらにオーナーに詰め寄ったが、オーナーも同じ答えを返すばかりだ。
とうとう、しびれを切らしたか、先輩は俺を呼んだ。
「おい、これを下ろすのを手伝え。中身を確認してみよう」
オーナーはそれを止めようとしたが、かつてプロボクサーだったとはいえ、今は高齢、先輩と俺を阻止できるほどの体力はない。
俺たちはサンドバッグの袋を下ろして、口を開けた。
中には、普通のウエスが入っていた(ボクシングが日本に伝わった初期は、名の通り、砂が入っていた時代もあったようだが、今はウエスやウレタンなどが入っている)。
先輩と俺は、そのウエスを袋の外に次々と引っ張り出した。
――!
中には、黒いビニール製の袋が入っている。何か固いものを、何重にもビニール袋でくるんである。
そのビニール袋を開けてみると……人間が入っていた。より正確に言えば、かつて人間であった肉塊だ。
先輩が、おい!110番!と叫んで、俺は慌てて、電話を手に取った。
……その後、警察がやってきて、当然、オーナーはすぐに逮捕された。
俺はこの件で、生まれて初めて、警察の取り調べというものも経験したし、いろいろとてんやわんやだったが、今はやっと落ち着いている。
取り調べというのは、警察官からこちらがあれこれ訊かれるだけで、捜査の結果などを教えてくれるわけではないので、事件の詳細については、テレビのニュースで知ったのだが、サンドバッグの中に詰められていた死体はオーナーの奥さんで、長年にわたって虐げられてきたという思いがあり、激しい喧嘩の際にそれが爆発、発作的にやってしまったのだという。
オーナーは死体を隠して、妻の死を隠蔽しようと考えたが、その際に、サンドバッグの中に隠せば、毎日、何人もの人にボコボコ殴られるからこれまでの溜飲を下げられると思い、隠したと供述したのだとか。
それを聞いてから、サンドバッグを見ると、ちょっと気持ち悪くなってしまうので、今後もボクサーを目指すかどうか、悩んでいる。



























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